臨床に利用される治療法は、それまでの膨大な基礎医学研究により支えられていることは言うまでもないが、基礎医学研究といえども明確に臨床応用を意識して実践的に考える基礎研究と、臨床応用可能性を意に介さず医学的現象を追求するタイプに分かれる様な気がする。もちろん、動物を使っていても徹底的に臨床に即した前臨床研究と、全く応用とは無関係な基礎医学研究の間に線を引くことは難しい。
今日紹介するハーバード大学、ダナファーバーガン研究所からの論文は、少しでも早く臨床に結びつけたいという気持ちが伝わってくる結構実践的な研究で、4月28日号 Cell に掲載された。タイトルは「Augmenting NK cell-based immunotherapy by targeting mitochondrial apoptosis (NK細胞による免疫治療をミトコンドリアを介する細胞死を標的にすることで高める)」だ。
キラーT細胞やNK細胞を培養してガン患者さんに投与し、ガンを征圧する試みの歴史は長く、現在も臨床応用が進んでいるが、残念ながら普及するには至っていない。これは、原理は正しくても、メカニズムの詳細が理解できておらず、コントロールできない要因が多く残されているからだ。
NK細胞は、標的細胞が多い場合は、グランザイムBを分泌して、細胞のアポトーシスを誘導して殺すことが知られている。この時グランザイムBはミトコンドリア膜からチトクロームcを遊離させ、これがアポトーシスにつながることが知られていたが、この研究ではこの過程を、グランザイムBによるBID蛋白質の分解が引き金になり、それがBak/Baxを活性化し、ミトコンドリア膜電位を消失させ、細胞死を誘導することを明らかにしている。
さらに、NK細胞による標的細胞の障害は、all or noneといったものではなく、分泌されるグランザイムBの量に応じて蓄積していき、最終的に閾値を超えると細胞死が起こることも明らかにしている。
以上の結果を総合すると、NK細胞でガンを傷害しようとするとき、Bak/Bax活性化を阻害するBcl2などの分子を前もって抑制しておけば、少ないNK細胞、またグランザイムBでガンを殺すことが出来ることになる。すなわちBcl2阻害剤を使うことでキラー活性を高める可能性が出てくる。
ただ、残念ながらこのような阻害剤は、NK細胞も細胞死へと誘導してしまい、ただ阻害剤を使うだけではうまくいかないことがわかった。
ここからがこの研究の実践的な点で、NK細胞がBcl2阻害剤に抵抗力を持つ条件がないか調べている。すると、NK細胞を24時間、約2割の細胞が死ぬ程度の量のBcl2阻害剤で前処理することで、Bcl2だけでなく、Bcxl,、MCLなどのアポトーシス抵抗性蛋白質の発現が高まること、そして一度処理されると、後は抵抗性を獲得したまま増殖させることが出来ることを明らかにしている。
最後に、前処置してBcl2阻害剤抵抗性を獲得したNK細胞を、ガン細胞を移植したマウスに移植すると、ガンの増殖を強く抑えることが可能になることを示している。また、一般的なT細胞もグランザイムBを使っていることから、同じ方法で治療できる可能性があることも示している。
さらに、Bcl2阻害剤が効果がない腫瘍では、MCL阻害剤を組みあわせることでガンを抑えることが出来、どの阻害剤が最適化もBHプロファイリングと呼ばれる方法で前もって予測できることも示している。
このように、NKやキラー細胞を一度試験管内で増殖させる治療法については、キラー細胞の培養法を変化させて、Bcl2やMCLを誘導し、それをBcl2やMCL 阻害剤とともに投与することで、より強い効果が得られることを示している。
おそらくキラー細胞培養を行って居る研究室なら、明日からでも可能な方法なので、是非試していって欲しいと思う。
NKやキラー細胞を一度試験管内で増殖させる治療法では
1:キラー細胞の培養法を変化させ、Bcl2やMCLを誘導し、それをBcl2やMCL 阻害剤とともに投与し、より強い効果が得られる。
2:おそらくキラー細胞培養を行って居る研究室なら、明日からでも可能な方法だ。
Imp:
CPC培養に新たな工夫を施すだけで、Armerd-Cellに改造できる可能性が。。。大変興味深い論文でした。