歯周炎が全身の炎症に影響することはよく知られた事実で、動物実験レベルでは驚くことに、歯周炎とリウマチが相互に関係し合うことが報告されている。今日紹介するペンシルバニア大学とドレスデン大学からの共同論文は、両方の炎症性疾患を、炎症にプライムされた骨髄幹細胞が仲立ちするという研究で、5月1日号Cellに掲載された。タイトルは「Maladaptive innate immune training of myelopoiesis links inflammatory comorbidities(顆粒球造血へと適応した免疫トレーニングが異なる炎症疾患を仲立ちする)」だ。
これまでこのグループは、歯周炎やリウマチ関節炎のような慢性疾患をマウスに誘導すると、骨髄幹細胞がリプログラムされ、顆粒球増加が起こりやすくなる現象を研究しており、この研究では、このメカニズムが歯周炎によりリュウマチ、あるいはリウマチにより歯周炎を悪化させる可能性を追求している。
読んでいてまず感じるのは、single cell RNA seqやAtak-seqなどを用いている割には、古典的な印象の強い研究で、マウスに炎症を誘導した後、骨髄幹細胞を採取、それを移植されたマウスで次の炎症反応を見るという骨格になっている。
研究では、歯肉を糸で縛る方法で歯周炎を誘導したマウスの骨髄で、造血幹細胞や、少し分化した顆粒球系幹細胞の数が増加し、また遺伝子発現で見たとき顆粒球増殖と移動が起こりやすい方向への分化が進んでいることを示している。さらに、single cell Atak-seqを用いて、これらの変化がクロマチンの変化を伴うエピジェネティックな変化であることを明らかにし、炎症刺激が除去された後も、一定期間持続することを示している。
これを「訓練」された骨髄細胞として、次にこの訓練細胞が、他の炎症刺激への反応への過敏性を媒介するか、骨髄移植モデルで調べ、訓練細胞を移植したマウスはコラーゲン注射で誘導される関節リウマチが悪化することを示している。
また、逆の実験も行っており、コラーゲン注射による関節炎を誘導した骨髄細胞を移植されたマウスは、同じ方法で誘導しても歯周炎が悪化することを示している。
そして、この訓練細胞誘導に、骨髄中でIL1βが上昇することに起因することを、IL1β受容体をノックアウトした骨髄を用いた移植実験で確かめている。
結局、新型コロナウイルスでも問題になった、trained immunityの問題で、歯周炎という、極めて頻度の高い病気を対象にした意外性でCellに掲載されたのだと思うが、それ以外は特に新しいことではない。いずれにせよ、できるだけ炎症の元を除去してInflammageingを抑えるのが長生きのコツであるのはよくわかる。
新型コロナウイルスでも問題になった、trained immunityの問題で、歯周炎という、極めて頻度の高い病気を対象にした意外性でCellに掲載されたのだと思う。
Imp:
体のどこかに“炎症の巣”があると骨髄幹細胞レベルで“炎症モード”に体が変化する!?低用量アスピリン内服は良いかも!?