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5月10日 日焼け止めが珊瑚礁を壊す(5月6日号 Science 掲載論文)

2022年5月10日
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世界中で珊瑚礁が危機に瀕していることが明らかになっている。以前紹介したように、その主要な原因は地球温暖化により、サンゴ(刺胞動物)と共生する藻類の温度感受性が高く、温暖化でその数が急速に低下しているため、サンゴも生存できなくなっていることがわかってきた(https://aasj.jp/news/watch/6275)。一方で、珊瑚礁が死滅するスピードが場所により異なることから、当然人間が原因となる要因もあることが想定されていた。人的要因についての犯人捜しの過程で、最近注目されているのが日焼け止めクリームで、なんと水泳客の多いエリアでは、成分の一つ oxybenzone が 1.4mg/l にまで達することがわかっている。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文は oxybenzone がサンゴを殺すメカニズムを明らかにした研究で5月6日号 Science に掲載された。タイトルは「Conversion of oxybenzone sunscreen to phototoxic glucoside conjugates by sea anemones and corals(イソギンチャクやサンゴは日焼け止めクリーム中の oxybenzone を光毒性を持つグルコシド化合物に変換する)」だ。

この研究では刺胞動物の代表としてサンゴの代わりにイソギンチャクの一種 Aiptasia を使っている。この種は、サンゴと同じで藻類と共生体を形成しており、珊瑚礁形成能はないが、サンゴ研究に使われている。

まず oxybenzone を Aiptasia の水槽に加える実験から、oxybenzone 自体は毒性がないことがわかる。ところが、そこに一定の波長の紫外線を当てると、8μMの濃度の oxybenzone で全ての Aiptasia が死滅する。即ち、UV から細胞を守る分子が、UV により光毒性を媒介するという皮肉な現象が起こっていることがわかった。

この原因を Aiptasia による oxybenzone の代謝物で光毒性を発揮できる分子にあるとみて、生化学的に調べると、最終的に oxybenzone がブドウ糖と結合した glucoside-benzone が UV により活性化され、細胞障害性の活性物質生成の触媒として働くことを発見する。すなわち、oxybenzone のような脂溶性の分子を水に溶けやすくして輩出する Aiptasia の機構が、oxybenzone と glucoside を結合させ、光により様々な活性分子の生成を促すことがわかった。

最後に、藻類と共生関係にある状況で gluoside-oxybenzone による光毒性が発生する過程を調べ、共生関係が成立している場合、毒性が強く抑制されることを明らかにしている。これは、glucoside-oxybenzone のほぼ全てが藻類により Aiptasia から隔離されてしまうためで、ここでも藻類との共生がサンゴを守っていることが明らかになった。

以上が結果で、地球温暖化でサンゴを守る藻類との共生が難しくなり、それに輪をかけて、日焼け止めを塗った水泳客の脅威にもさらされるという恐ろしい話だ。結局温暖化も人間が原因なので、これをなんとかするためには、温暖化を抑え、サンゴやそれと共生する藻類が分解しやすい日焼け止めを開発するしかない。さあどうする。

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