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8月5日:ガン化に関わる遺伝子調節領域変異とガン体質(Natureオンライン版掲載論文)

2014年8月5日
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がん研究紹介第二弾はスイスのジュネーブ大学からの研究を紹介する。ガンの全ゲノム塩基配列が解読できるようになっても、これまで研究の中心はタンパク質へと翻訳されるエクソームに集中していた。しかし先日米女優が乳房除去術を決断したことで話題になったBRCA1突然変異の様に、ガン増殖に直接関わる分子の変異を生まれついて持っていることはまれで、ガンが発生する過程で蓄積してくるのが普通だ。とは言っても、遺伝的なガン体質があることも様々な疫学的調査から確認されている。ではこのガン傾向は何に起因するのか?   私たちのゲノムのうちタンパク質に翻訳されるエクソームは、全体の1.5%に満たない。従って、ガン体質と考えられるかなりの部分はタンパク質に翻訳されない場所の多型が大きく寄与すると予想される。この点を明らかにしようとしたのが今日紹介する論文で、Natureオンライン版に掲載された。タイトルは「Putative cis-regulatory drivers in colorectal cancer(大腸・直腸がんで働く遺伝子調節に関わるドライバー遺伝子)」だ。研究では、正常腸上皮が大腸ガンへ変わる時に大きく発現の変化する遺伝子をリストし、その発現調節領域を様々な角度から調べている。ガンが起こる時片方の染色体で遺伝子の重複や欠失起こることが知られているが、この場合同じ遺伝子の発現量が染色体間で違ってくることが予想される。実際、片方の染色体に存在する遺伝子の発現が選択的に変化しているケースがガン細胞で多い。また直腸がんでの上昇が報告されている遺伝子でより強くこの現象が見られる。ではこの変化は、全てガン化の過程で新たに蓄積して来たのか?この点を確かめるため、この様な染色体間での発現の差が大きい遺伝子を71種類リストしてその調節領域を更に詳しく解析し、1)これらの遺伝子の多くが、直腸がん発生との関連が示された遺伝子であること、2)しかしこの差はガン化に伴う遺伝子コピー数の変化が原因でないこと、3)ガン化の過程で蓄積する調節領域の変異がガンの発生に重要であること、4)驚くことに、ガンの発生に関わる調節領域の変異のかなりの部分が、同じ患者の正常細胞にも見られること、を明らかにしている。遺伝子発現調節領域の変異によりガンが発生することは予想されていたが、ガンに特異的と思われていた調節領域の多型の相当数が患者さんの正常細胞でも見られることは、この多型こそがガン体質に大きく貢献している可能性を示唆している。今後、このようなガンと正常細胞に共通に見られる遺伝子発現調節領域の多型のリストが進むと、いわゆるガン体質を科学的に評価することが可能になると期待できる。しかし患者さんの立場から考えると、遺伝子発現調節領域の多型としてガン体質がわかったとしても、生活に気をつける以外に対策がないことも事実だ。何か対策のヒントを提供する研究も誰か考えて欲しい。
  1. 竹田潤二 より:

    いわゆる、親から受け継いだ変異以外の変異がどの程度、疾患に影響を与えているかは以前から興味があります。もちろん、体細胞変異の蓄積するガンはその代表例ですが、ガン体質を説明するには単純な体細胞変異の蓄積では説明が困難だとおもいます。乳がんにおけるBRCA1,2, などの変異遺伝子を親から片アレル受け継ぐということも考えられますが、そうではない場合が大部分だと考えています。つまり、生殖細胞に近い所か、体細胞で遺伝子異常を起こし易い染色体領域があると、私は考えています。その起こり易さは、喫煙、食生活などの環境要因だと思っています。

    1. nishikawa より:

      勿論竹田さんの言う通りエピジェネシスが大事ですが、この論文を信じればある程度転写調節領域に体質はありそうです。ただ、全てeQTLテストなどのinformaticsをどこまで信じるかです。この体質の機能テストは結局出来ていません。

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