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5月21日 MIF 阻害剤は神経変性性疾患治療のゲームチェンジャーになるかもしれない(5月26日号 Cell 掲載論文)

2022年5月21日
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神経変性疾患を誘導する引き金は、それぞれの病気で様々で、パーキンソン病ではシヌクレイン、アルツハイマー病ではアミロイドβ だが、その後の細胞死が起こる過程では、共通の過程の存在が最近明らかになってきた。中でも注目されているのが、ミトコンドリアからの活性酸素により起こるDNAダメージを引き金に遊離される Poly-ADP リボース (PAR) による細胞死で、他の細胞死と区別して Parthanatos と呼ばれている。

この発見が重要なのは、Parthanatos が関わる神経疾患での細胞死を抑制して、病気の進行を遅らせる方法が開発できる可能性がある点だ。例えば、PAR を合成する PAR ポリメラーゼの活性化を阻害すると、神経変性は抑制できることがわかっている。しかし、PAR ポリメラーゼは生命必須の分子で、治療標的には適さない。

今日紹介するジョンズホプキンス医科大学からの論文は PAR が核内から遊離した後の過程をパーキンソン病 (PD) モデルで再検討して、神経変性疾患を抑える新しい薬剤開発が可能であることを示した重要な研究で5月26日号 Cell に掲載された。タイトルは「PAAN/MIF nuclease inhibition prevents neurodegeneration in Parkinson’s disease( PAAN/MIF ヌクレアーゼの阻害はパーキンソン病での神経変性を抑制する)」だ。

この分野の進展は極めてホットで一度 PD の患者さんとジャーナルクラブでまとめてみたいと考えているが、この結果 PAR による Parthanatos のメカニズムが明らかになってきた。論文紹介前にこのメカニズムを解説すると、DNA ダメージなどで PAR が合成され、核から遊離されると、ミトコンドリア膜上の apoptosis inducing factor (AIF) と結合、これが細胞質内の MIF と結合すると、PAR は遊離して核内へ移行、そこで DNA を切断し、Panatosis を誘導する。

この研究の目的は、AIF と MIF が結合して生まれる DNA 切断活性を標的に薬剤開発の可能性を探っている。免疫学者には、MIF はマクロファージ遊走を阻害する因子で、炎症にとって重要な分子として知られているが、実際には細胞質内に存在して、ヌクレアーゼ活性を持っていることが知られている。研究では、1) MIF ノックアウト動物や細胞を用いて、シヌクレインにより誘導される神経変性が MIF に依存していること。

2)この過程には、MIF の AIF 結合活性とMIF のヌクレアーゼ活性が必須で、マクロファージ遊走阻害活性は必要ないこと。

を明らかにした後、MIF のヌクレアーゼ活性を検出する試験管内のアッセイ法を用いて、阻害剤をスクリーニングし、C8 と呼ばれる阻害剤をまず同定している。

C8 は試験管内の Parthanatos を阻害することが出来るが、残念ながら脳血管関門を通り抜けられない。そこで、C8 アナログの中から脳血管関門を通過できる化合物、C8-31(PAANIB-1と名付けている)を開発した。

この分子は、例えば FK506 などとも良く似ているが、標的の重なりはなく、現在のところ MIF のヌクレアーゼ活性特異的で、しかもシヌクレインを注射して誘導されるドーパミン神経の変性を抑制することが出来る(8ヶ月にわたる長期実験)。また、5mg/Kgの経口投与で効果が得られることを示している。

以上が結果で、個人的な印象だが、神経変性を直接狙った画期的な薬剤開発の可能性が示された重要な論文だと思う。勿論、この薬剤はさらに至適化される必要があるだろう。これが可能になると、パーキンソン病だけでなく、アルツハイマー病や ALS 治療まで拡大できる可能性もある。期待が大きいので、一度患者さんとジャーナルクラブで取り上げることにする。

  1. okazaki yoshihisa より:

    この分子は MIF のヌクレアーゼ活性特異的でシヌクレインを注射して誘導されるドーパミン神経の変性を抑制する(8ヶ月にわたる長期実験)。
    5mg/Kgの経口投与で効果が得られる.
    Imp:
    神経変性疾患に対する新たな標的薬発見の可能性!
    ジャーナルクラブ楽しみにしております。

    1. nishikawa より:

      是非参加してください。RNAの次に計画します。

  2. yamada より:

    いつも楽しく拝読させていただいております。
    神経変性のメカニズムが進化学的にはどのような意味をもってきたか興味深く思いました。
    この研究の展開として、いずれ神経変性を阻害することはできるようになったが、代わりに癌などのリスクが上昇することが分かった、だから神経変性はただ単に阻害してはいけない必要なプロセスだったのだ、などといった流れで進む可能性も考えられますでしょうか

    1. nishikawa より:

      DNA障害を受けた細胞を積極的に殺す役割があるので、おっしゃるとおりガンが増えたり、senolysisがうまくいかずに老化が早まったりするように思います。

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