脳細胞を考える時、私たちは単純に興奮神経、抑制性神経、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、そしてミクログリアから出来ていると単純化して考えている。特に、神経を支える側のグリア細胞については、多様性について考えることはほとんどない。しかし、様々な疾患でのアストロサイトの役割が明らかになるにつれ、その機能の多様性に注目が集まっている。
今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は人間の胎児皮質スライス培養を用いてグリア細胞の多様性を発生学的に明らかにした研究で、ヒトでもここまで出来るのかと驚いて読んだ。タイトルは「Fate mapping of neural stem cell niches reveals distinct origins of human cortical astrocytes(神経幹細胞ニッチの運命マッピングは人間の皮質アストロサイトの異なる起源を明らかにした)」だ。
研究自体は単純で、18−23週目のヒト胎児の皮質を切り出し、2週間程度培養し、その間に標識遺伝子をアデノウイルスで幹細胞に導入、その後のコースを追跡している。切り出した脳スライスをどこまで正常発生と同じと考えるかは問題になるにせよ、新鮮な脳を集めるだけでも大変なはずで、ともかくやり遂げたことに感心する。
神経細胞が subventricular zone(脳室下帯)と呼ばれる場所に存在する幹細胞が分化しながら radial glia(放線状グリア細胞)をたどって移動することで、美しい層構造が形成されることは、教科書的事実として認められている。一方、radial glia も含めアストロサイトやオリゴデンドロサイトなどのグリア細胞が、神経幹細胞から由来することは描かれていても、その後の分化についてはあまり知られていないように思う。
この研究では、まず、ヒト胎児皮質の ventricular zone (VZ) とその上の subventricular zone (SVZ) に分けて、幹細胞をラベルし、その後の運命を調べている。そして、少なくともヒトのこの時期では、SVZだけでなく、VZ 細胞を標識しても、神経やグリア細胞をラベルで着ることを確認している。
ヒト胎児では VZ にも幹細胞が存在することは重要な結果だが、VZ 標識と SVZ 標識でラベルされる細胞の性質が大きく異なっていることが初めて発見された。
まず、radial glia 細胞には長い突起を一方向に伸ばしたタイプと、双方向に突起を伸ばしたタイプの2種類が存在するが、VZ からは後者のみ、SVZ からは前者のみが発生することがわかった。
さらに驚くことに、標識された神経細胞は脳の全ての層に分布するのだが、アストロサイトを調べると、もともと幹細胞起源と言われていた SVZ 起源のものは、AVZ とその上の subplate にだけ分布し、一方 VZ 起源のアストロサイトは脳の全ての層に分布することが明らかになった。
そして、これらの起源の異なるアストロサイトは、形態的にも、分子発現的にも区別が可能で、例えばグリオーマで発現が高いインテグリン β4 などは、VZ 由来のグリア細胞だけで発現していることを示している。
結果は以上で、この差が脳の発生や機能とどう関わるかはわからない。しかし、人間を用いた研究から、マウスでは指摘されないことがここまでわかるというのは驚きで、胎児脳を用いた研究に対して反対もあると思うが、その意義は大きいと思った。
アストロサイトを調べると、もともと幹細胞起源と言われていたSVZ起源のものは、AVZとその上のsubplateにだけ分布し、一方VZ起源のアストロサイトは脳の全ての層に分布することが明らかになった。
Imp:
起源の異なるアストロサイトは、形態的にも、分子発現的にも区別が可能とは!!