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6月4日 キリンの首はなぜ長い(6月3日 Science 掲載論文)

2022年6月4日
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ガリレオにより「科学」という、それまでにはなかった新しい「知」の可能性が示された後も、生物は科学の対象外にあった。勿論科学的に考えようとした18世紀のビュフォンを代表とする自然史研究者も、目的に導かれるように見える生命の進化を、ガリレオが示した真知形成の手続き、すなわち「科学」的に説明することは出来なかった。そこに登場したのが19世紀のダーウィンで、多様化と自然選択で進化を説明した。まさに、物理世界の因果性には存在しないアルゴリズムが、科学に登場した瞬間だと思う。

進化のアルゴリズムについて、用不用説を唱えたラマルクとダーウィンを比較する時に使われるのが、キリンの首の話だ(例:https://edu.glogster.com/glog/lamarck-vs-darwin/2d1tlii5fam?=glogpedia-source)。私も授業に使っているが、自然選択説でも、用不用説でも、首が伸びる目的は、高い木の上の葉を食べるというニッチ獲得になっている。

今日紹介する北京、中国科学アカデミー研究所からの論文は中国ジュンガル盆地で新しく見つかった、1600万年前のキリン科の哺乳類 Discokeryx xiezhi の骨格解析から、キリンの首はメスを巡るオス同士の戦いが選択圧になったという研究で、6月3日号 Science に掲載された。タイトルは「Sexual selection promotes giraffoid head-neck evolution and ecological adaptation(メスを巡る戦いがキリン科の長い首の進化と適応を促した)」だ。

研究は、骨格の解析、そして時代検証につきる。

私が知らなかっただけだが、この研究の前から首をハンマーのように用いて戦うために、首の長さが伸びたとする説は提唱されていた。ただ、今回解析された Discokeryx xiezhi は、キリン科ではあるが首がどっしりしてそう長くない。

特に頭の骨を見ると、かなり厚く、頭同士をぶつけ合って戦うスタイルに適しており、首の骨もそれに適応して、強い力を分散させる構造になっている。事実、首モデルで有限要素解析を行うと、頭をぶつけ合ったときの力を分散できることが示されている。そして、おそらく戦ったことによる骨髄炎の名残も観察できる。

一方、頭をぶつけ合う戦いに向かないキリン科の化石も見つかっているが、この場合は首がローテートしやすい構造を持っており、首を巻き付けて戦うのに適したようになっている。

即ち、首そのものを戦いに使えるキリンと、頭をぶつけるブルファイト型のキリンが見つかったことで、高い木の葉っぱを食べるという、食料ニッチではなく、他のオスに勝つという戦いが選択圧になったと言う結論だ。

では、当時キリンが生息していた世界は、高い木がニッチにはならなかったのか?これについては、歯のエナメル質アイソトープ解析から、少なくとも Discokeryx xiezhi は、木の上の葉を主食としていたわけではないことが示された。

以上、次回からラマルクとダーウィンの話は、もう少し複雑な話として語る必要がありそうだ。

  1. okazaki yoshihisa より:

    首そのものを戦いに使えるキリンと、頭をぶつけるブルファイト型のキリンが見つかったことで、高い木の葉っぱを食べるという、食料ニッチではなく、他のオスに勝つという戦いが選択圧になったと言う結論だ。
    imp
    自然選択圧の実体。
    謎です。

  2. ムーさん より:

    キリンの首が長いことよりも、長くなっても差し支えない機構(奇驚綱等)を獲得したことの方がより重要だと考えられます。オス同士のヘッディングやネッキングでの戦いが奇驚綱等の発達を促し、偶々長くなった首も有効な武器になったとしても不思議ではなく、興味深い研究です。
    ラマルクの過ちは結論としての「用不用説」ではなく、種の中の個体と集団としての種とを明確に区別せず混同した点にあり、種と個体を識別したダーウインとの違いです。また残念なことに現在においてすら種内での選択圧と種間での選択圧を混同して議論する傾向が見受けられます。

    1. nishikawa より:

      コメント有難う御座います

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