てんかん発作の多くは、部分発作と呼ばれるタイプで、局所の神経に過剰な神経興奮が誘導され、それが脳全体に伝搬する。多くの場合、抗けいれん剤で発作を抑えることが出来るが、この治療に抵抗性のケースを薬剤抵抗性てんかん(drug refractory epilepsy:DRE)と分類される。そして発作が繰り返し、日常生活に著しい障害が生じる場合、皮質に電極を設置し、てんかん発作の始まる場所を特定し、そこを切除して発作を抑える治療が行われる。このHPで何度も紹介してきた、広い範囲を多くの電極でカバーする皮質電極を用いて脳の活動を正確に記録し、脳機能を調べる研究のほとんどは、てんかん巣切除のために皮質電極を設置した患者さんにお願いして行われた研究だ。
今日紹介するシンガポール国立大学からの論文は、検査確定後切除されたてんかんの発生源組織をsingle cell RNAsequencingで調べ、てんかんの発症と炎症の関わりについて検討した研究で、6月22日Nature Neuroscienceにオンライン掲載された。タイトルは「Single-cell transcriptomics and surface epitope detection in human brain epileptic lesions identifies pro-inflammatory signaling(Single cellトランスクリプトームと表面分子検出によりてんかん発生源に炎症性シグナルの存在が特定される)」だ。
この研究では、最初から、てんかん発生源に炎症細胞の浸潤があるはずだという仮説に基づいて、研究が行われている。この治療の目的が組織切除なので、患者さんの負担もなく、十分な質の高い細胞が得られると想像できる。その意味で、発作が起こっていない時の神経細胞側の変化についても、詳しく検討して欲しいと思うが、全く調べていないのが残念だ。
従来から治療抵抗性のてんかんの背景には炎症があることが指摘されてきたが、この研究では、まず正常と比べたとき、てんかん発生起源に存在するミクログリア細胞が、予想通り炎症性サイトカインを分泌する活性型に変化していることを確認している。
次に、リンパ球などの浸潤細胞側の解析を行い、マクロファージからリンパ球、NK細胞までほとんどの細胞が浸潤しており、特にT細胞ではグランザイムBの発現を含む炎症性変化が認められることを示している。すなわち、浸潤リンパ球主体の炎症が起こっている。
後は、浸潤細胞間の相互作用を特定するデータ処理法、さらには接合している細胞を純化して遺伝子発現を調べる方法などを組みあわせ、炎症現場で起こっている相互作用を調べ、
- インテグリンを介する血管外への遊走が浸潤に重要な働きをしており、てんかん発生源にはこの過程を誘導する条件が存在する。
- ミクログリアが直接CD4及びCD8T細胞と結合して相互作用を行っている。
- この相互作用には、ミクログリア側のCCL4とIL1β、T細胞側のインターフェロンγ、グランザイムB、XCL1ケモカインがかかわる。
などを明らかにしている。ただ、反応しているT細胞のクローン増殖などについては検討できていないのも残念だ。
最初興味を持って読んだが、予想の範囲の結果で、炎症だとしても、結果なのか原因なのか、何故発生源で炎症が起こるのかなど、重要な問題はそのまま残っている。出来れば、神経側の解析をもっと深めて欲しかったという印象だ。いずれにせよ、薬剤抵抗性の患者さんに炎症、特にT細胞による免疫性炎症を抑える薬剤の効果を調べる研究方向は、今後重要だと感じた。
薬剤抵抗性の患者さんに炎症、特にT細胞による免疫性炎症を抑える薬剤の効果を調べる研究方向は、今後重要だ!!
Imp:
T細胞による免疫性炎症を抑える薬剤が新たな治療法に発展するかも!?