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7月5日 筋ジストロフィーの筋障害を抑える新しい治療の可能性(6月29日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2022年7月5日

デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の原因は、ディストロフィンとして知られる大きな分子をコードする遺伝子の変異によることがわかっており、根本的な治療としては、正常ディストロフィンを合成できるようにする、遺伝子治療か細胞治療と言うことになる。ただ、これまで紹介してきたように、筋肉を保全して少しでも進行を遅らせる治療法、例えばステロイド治療、あるいはオートファジーを抑えるウロリチンによるなどの開発も進んでいる。

そんな中でも今日紹介するカナダ・ブリティッシュコロンビア大学からの論文は細胞外から病気をコントロールするという点で面白い研究だ。タイトルは「Metabolic reprogramming of skeletal muscle by resident macrophages points to CSF1R inhibitors as muscular dystrophy therapeutics(常在マクロファージによる筋肉細胞代謝リプログラムはCSF1Rの筋ジストロフィー治療の可能性を示している)」で、6月29日号 Science Translational Medicine に掲載された。

この研究は大きく二つのパートに分かれている。

最初は、筋肉組織に常在し、しかもそこで長期間自己再生するマクロファージ集団の特定だ。このような組織常在マクロファージは、脳のミクログリア、皮膚のランゲルハンス細胞、肝臓のクッパー細胞が相当するが、筋肉での存在も示唆されていた。

この研究ではパラビオーシスを用いて、血液循環を通って筋肉に定着するポピュレーションと、何ヶ月もほとんど置き換わらない集団を分けた上で、組織内で自己再生するポピュレーション(self-renewing resident macrophage:SRRMと名付けている)の分子マーカー TIM4+Lyve1 を特定している。

その上で SRRM を選択的に筋肉から除去する少し複雑な方法を開発し、筋肉障害後の修復過程での SRRM の機能を調べている。これまで、筋肉からマクロファージが除去されると、死細胞除去が出来ず、大きな壊死が起こることが知られていたが、この実験からこの機能は主に SRRM が担っていることが明らかになった。

このように、急性の筋肉障害では SRRM が必須であることがわかる。では、DMD のような慢性の障害ではどうか。この研究では、DMD モデルマウスに6週目から6ヶ月、12ヶ月と長期に CSF1R 阻害剤を摂取させる実験を行っている。すると、急性筋肉障害と異なり、機能的にも、病理的にも病気の進行を強く抑制できることが明らかになった。

この原因を探ると、SRRM が除去されることで、Treg が上昇することで炎症が抑えられること、さらに筋繊維の代謝がリプログラムされ、筋肉が伸びる運動による断裂に抵抗性の筋繊維へとスイッチすることが明らかになった。

結果は以上で、この代謝リプログラムの背景に、おそらく CSF1R 下流で誘導されるインシュリン様増殖因子が有ると示唆されているが、それ以上の解析は出来ていない。

人間でCSF1Rを阻害し続けたとき、ほとんど問題はないのかについて検討が必要だが、DMD のモデル犬も存在することを考えると、さらに長期に治療を続ける可能性を調べることは出来る。いずれにせよ、マクロファージを操作して DMD をコントロールする方法は、筋肉代謝、Treg 抑制、そしてマクロファージを介する炎症抑制と、一石三丁の方法になるかもしれない。


  1. okazaki yoshihisa より:

    マクロファージを操作してDMDをコントロールする方法は、筋肉代謝、Treg抑制、マクロファージを介する炎症抑制と、一石三丁の方法になるかもしれない。
    imp.
    マクロファージが標的候補になるとは!

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