この論文を読むまで、人間関係の煩わしさなどによる社会的ストレスは、睡眠を妨げるだけだと思っていた。しかし、今日紹介するImperial College Londonからの論文は、マウスの話とは言え、ストレスが睡眠を誘導して、不安を和らげる働きを媒介する神経回路を明らかにした興味ある研究で、7月1日号 Science に掲載された。タイトルは「A specific circuit in the midbrain detects stress and induces restorative sleep(中脳の特異的神経回路がストレスを検出しストレスから回復させる睡眠に関わっている)」だ。
ハンスセリエのストレス学説以来、ストレスが副腎皮質ホルモンの血中濃度を高めることが知られており、この結果神経的な不安症だけでなく、身体の様々な異常が誘導される。従って、早くストレスを忘れることが一番の治療法になるので、その意味では確かに寝て忘れるのが一番かもしれない。
この研究では、マウスで社会的ストレス特異的に睡眠が誘導されるという現象に焦点を当て、まず睡眠と覚醒の調節に関わることが知られている復側被蓋野(VTA)神経のストレスに対する反応を調べ、睡眠を誘導することが知られている GABA 作動性の神経(VTAgat)の一部が特異的に活動していることを発見する。
様々な神経回路特定方法の開発が進んだ現在では、この発見が有れば後は手間と時間の問題だけといってもいいが、この研究はその好例だ。次に、ストレスで活性化されるVTAgatが睡眠誘導に関わるかを調べる目的で、一度活動した神経だけ化学物質で再度興奮させる手法を用いて、ストレスに反応した Vgat を刺激すると、期待通り睡眠が誘導できることがわかった。
以上から、ストレスを感知した神経はは VTAgat に投射し、また VTAgat は睡眠誘導中枢に投射していることが想像される。このため、まず VTAgat と様々な神経領域とのストレス依存的結合を、狂犬病ウイルスのカプシドを用いる神経投射追跡実験を用いて徹底的に調べている。
その結果、ストレスのセンサーとして知られる視床下部の2領域(lateral preoptic hypothalamus(LPO) とventricular hypothalamus(PVH)、そして中脳周囲灰白質(PAG)から Vgat は投射を受けていること、そして睡眠誘導のスイッチ役の外側視床下部に投射して、ストレスから睡眠へのリレーをしていることを、解剖学的、生理学的に明らかにしている。
これに加えて、Vgat 神経の興奮により、睡眠が誘導されるだけでなく、行動学的な不安反応が低下すること、さらに Vgat から PVH へと投射する神経により副腎皮質ホルモンの分泌も抑えられることを示し、この反応がストレスから自分を守る神経回路であることを明らかにしている。
神経回路の特定のために膨大な実験が行われておりただただ感嘆するが、メッセージはシンプルで、「対人ストレスは寝て忘れろ」になる。特にストレスの意識が希薄な子供では、この教訓は重要ではないかと思う。
1:この反応がストレスから自分を守る神経回路であることを明らかにしている。
2:メッセージは、「対人ストレスは寝て忘れろ」になる。
Imp:
“睡眠は薬”の科学的証明!!
寝る子は育つ=>子供は良く寝せなさい
身体的に良く育つ以外に成人したときのストレス耐性の獲得にも関係する気がしました。