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8月11日:SOD1変異によるALSの治療可能性(Science Translational Medicine 8月号掲載論文)

2014年8月11日
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ALS(筋萎縮性側索硬化症)は進行性に筋肉の運動を司る運動ニューロンが失われる病気だ。誰もがこの病気にかかる可能性があり、一旦病気が始まると進行を止めることが出来ない。この病気は別名ゲーリック病と呼ばれるが、ルー・ゲーリックの様な運動能力に優れた大リーグのスターでも病魔に襲われることを教えるための名前と言える。私自身は専門家ではなく全て論文からの知識だが、ALSに関する論文は多く出版されており、最近の研究の進展は著しいように感じる。ここでも2月25日、ALSの一部のタイプでは、プリオン病と言われる状態に似たメカニズムで運動神経が失われることを示したカナダの研究を紹介した。この説では、異常な蛋白が増えることにより神経が自ら死んで行くと考える。一方、京大の漆谷さんや、今日紹介するScience Translational Medicine8月号に掲載された論文の責任著者ハーバード大Kevin Eganは、運動ニューロンは異常タンパク質によって活性化された周囲のグリア細胞のアタックをうけて死ぬと言う説を唱えている。この説が正しいと、異常グリア細胞からのアタックを防ぐことが出来ればALSを治療することが可能になる。「Genetic validation of a therapeutic target in a mouse model of ALS (ALSモデルマウスの標的治療の可能性を示すための遺伝的研究)」というKevin Egan達の論文はこの可能性を追求した研究だ。これまでEgan達はSOD1と呼ばれるタンパク質の遺伝的変異によって起こるマウスALSモデルマウスでは、プロスタグランジンD2を介して、活性化されたグリア細胞が運動ニューロンを特異的に傷害することにより病気が進行することを報告していた。この論文では、先ずES細胞から誘導したヒト運動神経と変異SOD1を持つマウスグリア細胞を共培養してグリア細胞の細胞障害性を調べる実験系で、プロスタグランジン受容体のうちDP1がこの障害性に関わることを突き止めた。そしてDP1特異的に阻害する化学化合物を使うことで運動ニューロン障害性を強く抑制できることを示した。次に、この試験管内で突き止めた治療標的が、ALSマウスモデルでも標的として考えられるか調べる目的で、DP1分子の機能が抑制されたALSマウスを遺伝子操作で作ると、DP1を持つマウスよりは少しだけだが病気を遅らせる事が出来ている。最後にこのALSモデルマウスで、試験管で観察された変異SOD1により活性化されたグリア細胞による運動ニューロン障害が身体の中でも確かに起こっていることを確認している。この結果かから、特異性や効果の高いDP1受容体阻害剤が得られればALSの進行を遅らせることが可能になると期待される。幸い、この研究では使えなかったようだが、この条件を満たす阻害剤が既に2010年Merckで開発されている。臨床に向けた取り組みがどこまで進んでいるか把握していないが、もし他の症状に対する治験が進んでおれば、ALS にも早期に使える可能性がある。是非Kevin Egan達の予想が当たって欲しい。  話は変わるが、Kevin EganはJaenischの愛弟子で、若山さんのマウスクローンの論文が発表されてすぐクローン研究に加わり、iPSが生まれる前には、核移植クローンのトップの研究者に成長していた。しかしiPSの発見以後研究方向をがらっと変え、ALSなどヒト神経疾患の治療法の開発に絞って優れた研究を出し続けている、まだ40歳になったばかりの若手研究者だ。神経細胞分化へ転向したこともあり、笹井さんを尊敬しており、親交も深かったはずだ。この意味で、若山、笹井両方を知るKevinが笹井さんの自殺に至ったSTAP問題をどう思っているのか、次に会う機会があれば是非知りたいと思っている。

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