AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 7月9日 音楽(音)が痛みを和らげる回路(7月8日号 Science 掲載論文)

7月9日 音楽(音)が痛みを和らげる回路(7月8日号 Science 掲載論文)

2022年7月9日

私はながら族で、現役を退いてからは、大体Apple musicを通して音楽を聴きながら仕事をしている。このサイトでは、様々な状況に適した音楽セットを提供しており、例えば朝起きて気分を高めたいときや、静かに考えたいときなど、多くのセットが用意されている。そして、Pain relief、痛み止め向きの音楽セットも用意されているが、驚くことにただ静かなクラッシック音楽を集めたものではなく、単純な音節が静かに繰り返す、このために作られたと思われる音楽だ。

前置きからわかるように、今日紹介したい中国合肥の中国科学技術大学からの論文は、人間ではなくネズミでも音を聞かすと痛みが和らぐかについて生理学的に調べた研究で、7月8日号の Science に掲載された。タイトルは「Sound induces analgesia through corticothalamic circuits(音楽は皮質視床回路を介して鎮痛効果を誘導する)」だ。

音楽を聴くと痛みが和らぐというのは、なんとなく納得していたが、結局は気が散るからだと理解していた。この研究ではマウスに様々な音を聞かせて、痛み刺激の閾値変化をまず徹底的に調べている。

まず、50dbぐらいの音圧で音を聞かせると、痛みが和らぐのだが、人間にとって気持ちのいい音楽だろうと、ホワイトノイズだろうと全く同じ効果がある。さらに、60dbという強い音圧では効果が全くなくなる。

さらに面白いことに、環境のノイズとホワイトノイズの音圧の違いが5dbでは痛みが和らぐが、それ以上だと全く効果がない。これらの結果をまとめると、確かに音に注意が向くことで痛みが和らぐが、少なくともネズミでは、環境と異なる音であれば何でもいい。そして、弱い音が周りから区別出来るときがその効果が強いということになる。野生の状況を考えると、障害を受けても次に襲ってくる敵の気配に注意を向ける必要があるときに、痛みを和らげる効果があることになる。

おそらくこのような行動解析がこの研究のハイライトで、これに関わる回路研究については、驚くほど道具がそろっており、ここでも聴覚回路から順番に痛みを和らげる回路を特定している。

まず痛みに関わる視床と聴覚野とのつながりを検索し、視床のVPとPO領域に神経投射が存在すること、そしてこの回路の自発的興奮が、行動と同じで、弱い音に注意を向けたとき低下するが、強い音では変化のないことを発見する。即ち、このサーキットでの活動が痛みが和らぐ現象表象している。

そして、聴覚野からシナプス結合を受けている、視床側のVPおよびPOの興奮を抑制、あるいは活性化する実験を行い、最終的にPOが後肢、VPが前肢の感覚野を支配して痛みを和らげていることを明らかにしている。

結果は以上で、回路の研究も重要だが、特に目新しさはない。ネズミを使うことで、高次の認識ではなく、単純な音の認識だけで痛みを和らげる仕組みを私たちが備えていることが面白い。これを知った上で聞き直してみると「Pain healing」と名付けられた音楽は、よく出来ていると思う。


  1. okazaki yoshihisa より:

    高次の認識ではなく、単純な音の認識だけで痛みを和らげる仕組みを私たちが備えていることが面白い。
    Imp:
    生命保持に直結している現象の可能性が高いようで、
    メカニズムは原始的なんですね。

  2. okazaki yoshihisa より:

    最近は、中高校生向けの”国際脳科学オリンピック”があるようです。
    医学部の講義に近いハイレベルな内容のようで。。
    驚きます。
    http://www.brainscience-union.jp/brainbee/brainbee2022

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

*