チェックポイント治療は、ガン治療を変えたといっても過言でないが、分子標的治療などとは異なり、ガンの現場で何が起こっているのか正確に捉えることは難しい。というのも、モニターできる免疫システムがほとんど末梢血に限定されていた。
これを大きく変えたのが、チェックポイント治療(ICT)を手術の前に行うガンのネオアジュバント治療だ。これにより、チェックポイント治療のガン組織での効果を、切除した標本ではっきりと調べることが出来る。
今日紹介するハーバード大学と中国の Guangzhou Laboratory からの論文は、頭頸部扁平上皮ガンで行われるネオアジュバント治療の機会を捕まえて、PD-1 抗体による治療、あるいは PD-1 抗体に CTLA4 抗体を加えた治療のガン組織及び末梢血細胞への効果を抗原受容体レベルにまで調べた、よくここまでと思える力作で、7月7日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Tissue-resident memory and circulating T cells are early responders to pre-surgical cancer immunotherapy(組織常在型と循環型T細胞は手術前のガン免疫療法に反応する)」だ。
研究では PD−1 抗体治療14例、PD-1+CTLA4 抗体治療15例の患者さんについて、一部の患者さんでは治療前の確定診断のバイオプシー、治療後に行われる手術切除組織、そして手術までの間の末梢血、術後の末梢血を採取、ここに存在する血液細胞、特にT細胞について、主に single cell RNA sequencing を用いて調べている。
まず知りたいのが、ICT により、ガン抗原特異的T細胞が増殖しているのかだが、上皮に対する強い接着力を持つインテグリンαEを発現したT細胞が強く増殖している。またこのポピュレーションは、ガンを殺す様々な分子を発現し、さらに他の免疫細胞を惹きつけるケモカインを発現している。
抗原受容体 (TcR) を調べると、まさにこの集団で同じ TcR が繰り返し認められるクローン増殖が起こっている。面白いことに、クローン増殖を起こしたT細胞の半分は元々ガン組織に存在し、そこで増殖したT細胞クローンだが、それまでガン組織には存在せず、末梢組織からリクルートされてきた TcR を持つクローンも新たに出現する。
これらのガン特異的 TcR は、様々なガン抗原を認識しており、中にはこれまで頭頸部ガンの抗原として知られていなかったものも見つかる(何万というペプチドを用いた大変な仕事の結果、TcR に反応するガン抗原を見つけているので、徹底性に感心する)。
T細胞の大きな変化に合わせて、白血球や樹状細胞なども再編成される。
ガン組織でクローン増殖しているT細胞は末梢血にも発見され、治療開始後2週間がピークで、それ以降は末梢には現れない。
増加している細胞の遺伝子発現から、ICT はこれまで言われていたように抗原刺激による疲弊を抑えるより、細胞の増殖を助けていると考えた方がいい。
以上が主な結論だが、ICTを免疫が低下しない時期に行う重要性がよくわかる研究だ。他のガンでは異なる可能性もあるが、臨床と基礎の協力が必要な分野が拡大していることを感じる。
1:ガン特異的TcRは、様々なガン抗原を認識しており、これまで頭頸部ガ
ンの抗原として知られていなかったものも見つかる。
2:T細胞の大きな変化に合わせて、白血球や樹状細胞なども再編成される。
3:ガン組織でクローン増殖しているT細胞は末梢血にも発見され、治療開始後2
週間がピークで、それ以降は末梢には現れない。
Imp:
樹状細胞がどのように再編成されるのか。。。
大変興味を惹かれます。