8月12日:進化を巻き戻す?(8月7日号Nature掲載論文)
2014年8月12日
18世紀、それまでのキリスト教に合わせた生物観が自然史思想絵と大きく変換する力となったのが化石の発見だ。最初は神が意図的に化石を置いたなどと無理な解釈を続けていたようだが、その後各国の自然史博物館を訪れれば必ず見ることになる、英国のウイリアムス、ヘニング、フランスのキュビエたちにより、動物は長い時間をかけて(急な変化が起こったと考える説もあった)進化すると言う思想が普通になる。しかし今存在する私たち動植物が過去の化石として残る動植物とつながっているとしても、その関係を如何にして決めればいいのか?残念ながら現在、全ゲノムが解読できている化石は70万年前の馬が精々で、それ以前になると骨の形態の比較をもとに関係を探ることになる。これに対し、現代の骨の形を出発点に時間を逆戻しして進化を研究できないかという可能性にチャレンジしたのが今日紹介するヘルシンキ大学からの研究で8月7日号のNature誌に掲載された。タイトルは「Replaying evolutionary transition from the dental fossil record (化石に見られる歯から現代の歯への進化過程を巻き戻す)」だ。先に言ってしまうが、研究自体は器官培養による歯の形成研究で、高々EdaとSHHという二つの分化増殖因子の効果を確かめた仕事だ、ただこの話を化石と結びつけ、時間の巻き戻しと言うタイトルをつけた点がこの著者のセンスで、これがNature掲載につながったと思う。器官培養で歯を再生する研究は普通に行われている。このグループでは歯の形成異常を示すEda欠損マウスの歯牙を試験管内で培養するとき様々な濃度でEdaを加えた時に試験管内で起こる異常から正常への変化を研究していたようだ。おそらくこの実験途上で、Edaの量によって出来て来た歯が、1994年中国で発見された5−6千万年前のげっ歯類Tribosphenomysの歯に似た形態が得られることに気づいたのだろう。中途の実験は全て省略するが、最終的にEdaの欠損したマウスの歯牙をSHH分子阻害剤と培養することでTribosphenomysに極めて近い歯を作れることを示し、実験的に進化過程の巻き戻しができると結論している。目の付け所がよく、豊富な知識があって、面白いストーリーが語れるなら、同じデータでも人を惹き付ける論文になることを示す典型だ。ただ、欲を言えばもう少し系統進化学の視点を入れて、このストーリーの遺伝的可能性を調べて欲しいと思った。現在形態と遺伝子を符合させられるのは系統進化学だけだ。様々な歯の形を持つほ乳動物ゲノムを比較して、EdaやSHHの発現や機能の変化が歯の形態を決定するのか是非知りたい。このグループのことはこの論文で初めて知ったが、なかなか優れた研究者達に思える。