骨の成長速度や、アイソトープを用いた代謝率の測定法が発達したおかげで、恐竜を全て変温動物と考えることはなくなり、ティラノザウルスも恒温動物の仲間に入るようになっている。しかし代謝だけで見ていくと、消化管での発酵により熱を発生させるシステムと、内在的発熱システムの進化を区別することは難しく、恒温性というシステムの進化を系統的に追いかけるのは難しい。
これに対し、今日紹介するポルトガル・リスボン大学を中心とする国際チームの論文は、内耳の構造から恒温動物かどうかを特定できることを示し、恒温性が哺乳動物というシステムの進化とともに形成されたことを示す研究で、7月20日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Inner ear biomechanics reveals a Late Triassic origin for mammalian endothermy(内耳の生体力学が恒温哺乳動物が三畳紀後期に現れたことを明らかにした)」だ。
何故、内耳の構造が体温を教えてくれるのか?驚きの着想はこうだ。私たちの平衡感覚は、半円形の中空の輪が3つ集まった三半規管により発生するが、これは頭が動いたときに、半規管内のリンパ液の動きをメカノセンサーが捉えることで出来ている。ただ微妙な動きに対応するためには、リンパ液の粘度が問題になり、高すぎても低すぎてもダメで、微妙なバランスが必要になる。当然、体温が上昇すると、液体の粘度が変化するため、液体の組成が変えられない場合(リンパ液はそれに当たる)、半規管の構造を変化させてリンパ液の動きを調整すると考えられる。すなわち、恒温動物は、変温動物とは異なる半規管構造を持つはずだと着想した。
ただ、半規管自体は化石化出来ないので、それを納める内耳の構造を調べ、恒温動物では径が細く抵抗が高い構造をしていることを確認する。この構造から、thermo-motility index(TMI) という指標を計算する方法を編み出して、230種類の脊髄動物で TMI を調べると、現存の変温動物と恒温動物を TMI ではっきりと区別できることを確認している。
とはいえ、運動性など他にも半規管の感覚に影響する要因は多いので、この値だけでどちらと100%決めることは難しい。しかし、同じ分岐群であれば、TMI が極めて優れた指標であることを確認するとともに、アイソトープを用いて行われた恒温性の判断とも一致することを確認している。
この結果を基に、哺乳類の系統進化過程の化石を調べ、これまで哺乳類の共通祖先の発生時期として考えられてきたプロゾストロドン科の分岐時期に一致して、内耳の構造変化も起こっており、TMIから体温の大きな変化が起こっていることが推定された。面白いのは、一度分岐したプロゾストロドン科の中でも、Hadrocodiumは変温動物に適応し直していることも推定されている。
この分岐が起こったのはカーニアン多雨事象と呼ばれる気象不順が起こった時期で、おそらくこの環境への適応として恒温性が、他の哺乳類の性質とともに発生したと想像される。
以上が結果で、アイソトープなどの現代テクノロジーとは無縁だが、膨大な計測と、計算、そして何よりも着想に感服した。
体温が上昇すると、液体の粘度が変化し、液体の組成が変えられない場合(リンパ液はそれに当たる)、半規管の構造を変化させてリンパ液の動きを調整すると考えられる。
すなわち、恒温動物は、変温動物とは異なる半規管構造を持つはずだと着想した。
imp.
半規管構造に反映されるとは、、、
なかなかできない発想です。