個人的だが、面白いと思ったヒトの卵子についての論文が Nature と Cell で見つけたので、今日、明日と紹介することにする。
今日紹介するスペイン・バルセロナ科学技術研究所からの論文はヒトの卵子が、発生後、時によっては50年近く息を潜めて待機していても、発生能力を持ち続けられる理由に迫った研究で、7月20日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Oocytes maintain ROS-free mitochondrial metabolism by suppressing complex I(卵子はコンプレックスIを抑えることで活性酸素の出ないミトコンドリア代謝を維持している)」だ。
言うまでもなく、老化の重要なトリガーの一つは活性酸素だが、ATP 合成酵素活性を維持するためにミトコンドリアが備えている電子伝達系により自然に発生してしまう。このため、多くの幹細胞では代謝を落とし活性酸素の発生を抑えるとともに、発生した活性酸素を除去する仕組みを備え、老化が進まないように出来ている。
この意味では、活性化されるまでジッと息を潜めて待っている卵子も、当然活性酸素を抑える仕組みがあるはずで、この研究はその仕組みを突き止めることだ。この研究では、アフリカツメガエルの卵子を参照において、手術で摘出された卵巣から取り出してきた卵子を使って、様々な実験を行っている。ただ、得られる卵子の数は多くないはずで、大変な実験だと思う。
まず、予想通り活性酸素がほとんど存在しないことを確認し、またカエルの卵子も同じ目的に使えることを確かめた上で、阻害剤を用いた研究から、活性化前の卵子では活性酸素の合成そのものが抑えられていることを発見する。
次に、ヒトとカエルでこれが予想通りミトコンドリア電子伝達系の活動低下であることを確認した後、阻害剤を用いたカエル卵子の実験から、complex I の活性が選択的に低下していることを発見する。そして、この原因がcomplex I に必要な蛋白質が集合せず、complex I 自体が初期卵には存在しないことを発見する。
また、卵子が活性化され成熟して行くにつれ、complex I が卵子内で形成されることも確認している。
結果は以上で、人間の卵子を使った実験は、卵子が活性化される前は活性酸素がが存在しないこと確認しただけで、後は全てカエルの実験なのだが、カエルであっても活性酸素発生と代謝のバランスを整える機能を、complex I 複合体の形成調節が担っているという発見は、重要だと思う。
今回確認されたわけではないが、おそらく人間でもcomplex I 複合体形成が同じように調節されている可能性は大きい。通常complex I が欠損しているなどまず思いつかないので、卵子だけでなく、多くの幹細胞システムでも調べてみる価値はある。一方、ガンのミトコンドリア代謝を押さえる目的でcomplex I 阻害剤を使うと、ガンを休止期に追い込んで、根治を困難にするかも知らない。今後 single cell 技術を使った研究が期待される。
しかし、この研究は卵子が活性化されるまで、文字通り「息を潜めている」ことを示して面白い。
全てカエルの実験なのだが、
カエルであっても活性酸素発生と代謝のバランスを整える機能を、complex I複合体の形成調節が担っているという発見は重要だ。
Imp:
complex I複合体の形成調節が“卵子維持”に重要。
活性酸素は“毒”ですね。
complex Iが発現していなくても、生存はできる、というのは驚きです。
ミトコンドリア機能は生命の維持に必須ではないんでしょうか?
プロトンのくみ出しと、ATP合成は他の複合体でなんとかなります。complex1の遺伝異常でも発生してきます。