腫瘍組織に浸潤する白血球は、同じ場所へのリンパ球の浸潤を阻害するため、ガン免疫を抑えるため、チェックポイント治療をはじめとするガンの免疫療法の最大の問題と考えられている。このブログでも何回か紹介したが、白血球の浸潤を防ぐ様々な方法がこれまで開発されているが、ガン周囲組織のサイトカインや、ケモカインを標的にした治療が中心となっている。私がこれまで読んだ中では、骨髄造血レベルで白血球の浸潤を抑える方法は、c-Kitに対する抗体を用いて造血全体を抑える方法で、1-2相の臨床研究としてテキサス大学から発表されていた(Science Translational Medicine 14, eabm6420, 2022)。
今日紹介する中国科学技術大学からの論文は、ガン細胞は視床下部から松果体のホルモンシステムに働いて、そこから分泌されるメラノサイト刺激ホルモン(MSH)が、白血球の前駆細胞に直接働き、白血球を増加させて免疫を抑えるという、意表を突く研究で、この意外さがなければ到底 Science には掲載されないのではと思うが、臨床応用が可能なら重要な論文だと思う。タイトルは「Pituitary hormone α-MSH promotes tumor-induced myelopoiesis and immunosuppression(松果体ホルモン α-MSH は腫瘍による白血球増多を促進し免疫を抑える)」だ。
実に古典的かつ、シンプルな研究だ。まず腫瘍を移植したマウスでは MSH のレベルが上昇していることを発見する。次に、MSH の松果体での発現を shRNA を用いてノックダウンすると、腫瘍組織の白血球が減少し、代わりにリンパ球が増えて、PD1抗体によるチェックポイント治療の効果が高まる。すなわち、ガン組織の白血球浸潤の重要な原因は松果体の刺激による MSH であることを明らかにしている。
では、MSH は白血球浸潤をどのように誘導するのか。MSH受容体の発現を調べ、驚くことに造血幹細胞だけで MSH受容体の一つ Mc5r が強く発現し、Mc5r をノックアウトされたマウスでは、ガン組織への白血球浸潤が低下し、リンパ球の数が上昇し、結果ガンの増殖が抑えられることを明らかにする。
そして、Mc5r阻害剤が腫瘍の増殖を抑制し、さらにPD1抗体によるチェックポイント治療と組み合わせると、ガンの強い抑制効果があることを示している。
最後に、人間のガンでも同じことが言えることを示す目的で、非小細胞性肺ガンの患者さんを調べ、MSH の血中濃度が高いこと、血液幹細胞で Mc5r の発現レベルが高いこと、そして MSH濃度に比例して白血球数が上昇していることを示している。
結果は以上で、極めた単純な実験だが、もし本当なら、ガン患者さんで白血球数の高い人を選び、その中から MSH も上昇している人について、Mc5r阻害剤をチェックポイント治療と組み合わせる治験をやってみることは重要だ。意外な結果だが、臨床まで持ってきてほしいと思う。
ガン組織の白血球浸潤の重要な原因は松果体の刺激による MSH であることを明らかにしている。
imp.
第三の眼=松果体。
生理的な概日リズムとも関係しているのでしょうか?