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8月9日 バクテリオファージで炎症性腸疾患を治療する(8月4日号 Cell 掲載論文)

2022年8月9日

以前、顧問先の企業の研究員に、バクテリオファージで細菌叢を操作することは可能か聞かれたことがある。細菌叢は複雑で一つの属でも複雑な構成をしているため、例えば大腸菌だけを相手にする実験的なファージ研究とは全く異なる難しさがあること、さらに運良く細菌を特異的に溶菌させても、耐性がすぐに現れるのではと答えたことがある。

しかし、こんな常識を全く気にせず、炎症性腸炎をプロモートする細菌をバクテリオファージで除去する課題にチャレンジしたのが、今日紹介するイスラエル・ワイズマン研究所からの論文で、8月4日号 Cell に掲載された。タイトルは「Targeted suppression of human IBD-associated gut microbiota commensals by phage consortia for treatment of intestinal inflammation(ヒト炎症性腸炎と連関する腸内細菌叢をファージを組み合わせて標的にすることで腸炎の治療が可能)」だ。

これまで、多くの研究により、クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸炎(IBD)に、腸内細菌叢が関わっていることが明らかになっている。即ち、細菌感染症ではないが、細菌により免疫系が炎症型へと傾くと考えられ、実際正常人の便を移植することで、症状が軽快する例が示されてきた。とすると、IBD で腸の炎症を後押しする特定のバクテリアがいるかもしれないと、これまで探索されている。

この研究の前半は、IBD で特に増加しており、無菌マウスに移植したとき、腸内免疫システムを炎症型へと変化させている細菌の探索を行い、最終的に腸内常在菌の Klebsiela pneumonie(Kp)を特定する。事実、Kp はこれまで公開されている IBDコホートの腸内細菌叢で増加しており、マウスに移植するとインターフェロンγ を分泌する炎症型CD4T細胞が増加、炎症を抑える IL10 をノックアウトしたマウスに Kp を移植すると、大腸に強い炎症が起こることを確認している。

標的細菌が見つかると、細菌を溶菌するファージの特定に移る。基本的には、他のバクテリアに対する作用は全て気にせず、Kpの分岐群を溶菌させられるかどうかに絞り、ファージを探している。ファージの標的になったバクテリアの方も当然耐性を獲得してくるが、この変異体にも作用のあるファージをさらに探して、最終的に試験管内だけでなく、マウスに経口投与してKpを減少させ、しかも腸管内で一定期間維持されるファージの組み合わせを突き止める。

あとは、マウスに抗生物質を投与した後、Kpを移植して IBD を起こす実験系で治療効果を確かめている。結果はドラマチックなものではなく、治療群で一定の効果が見られている。

最後に、人間への応用を考え、消化管での環境に耐えられることを確認した後、胃酸分泌を抑える条件で人間に投与し、腸管内でファージが10日以上維持されることを確認している。

結果は以上で、あとは SPFマウスに Kp を投与するというマウスのモデル実験ではなく、実際 Kp が増えて、かつ IBD が発生している患者さんを選んで治療できるか、臨床研究が出来るだけとなった。個人的には、そう簡単ではないと思うが、結果をまとう。


  1. okazaki yoshihisa より:

    試験管内だけでなく、マウスに経口投与してKpを減少させ、しかも腸管内で一定期間維持されるファージの組み合わせを突き止める。
    Imp:
    ファージ。
    抗細菌戦の新たな武器になるとおもしろいです。

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