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8月10日 他種間交雑で導入された遺伝子動態を調べる(8月5日 Science 掲載論文)

2022年8月10日
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ネアンデルタール人と現生人類がきびすを接して生活していた頃、他種間ではあるが交雑が行われ、その痕跡が私たちのゲノムの中にレガシーとして残っていることは今世紀最大の発見の一つだ。流入したネアンデルタール人の遺伝子は、通常なら組み換えを通して、一人一人のゲノムの中では薄まるが、集団としては広く分布していく。実際には様々な選択圧に加えて、組み換え時のホモロジーが低いことから、現生人類ゲノムから除去されやすい。これらを勘案して、我々の先祖の歴史をゲノムから想像するのだが、実際にグループ間の交雑がどのように行われるのかなど、短い期間の交雑データーがほしいところだが、全く不可能だ。

今日紹介するデューク大学からの論文は、ケニア・アンボセリ国立公園に生息する黄色ヒヒの群れを9世代50年にわたって記録し続け、そこで行われたアヌビスヒヒとの交雑で流入したゲノムの動態を調べた本当に頭が下がる研究で、8月5日号の Science に掲載された。タイトルは「Selection against admixture and gene regulatory divergence in a long-term primate field study(長期にわたる霊長類の野外研究により、他種間交雑と遺伝子発現の多様性が選択圧にさらされていることがわかった)」だ。

この研究の素晴らしいのは、50年前に将来の科学解析の可能性をよく考え、黄色ヒヒとアヌビスヒヒの生息域の境界に住むグループを選び、黄色ヒヒの集団の家族歴を全て記録するとともに、血液サンプルからゲノムを調べ、流入したアヌビスヒヒのゲノムが選択される動態を調べたことだ。観察当初は、黄色ヒヒだけのグループに、1980年ぐらいから後で、ゲノムからアヌビスヒヒと交雑したことがわかったはぐれザルが合流する歴史などが記録され、そこからアヌビスヒヒのゲノムを持つ現集団が出来ていく過程が追えている。我が国でも長期的視野に立つ研究の重要性が強調されるが、私が務めた京大で霊長類研究所のリストラを平気で行う様子を見ると、我が国の長期的視野などお題目に過ぎないこともよくわかる。

データを見ると、さらにこのグループの長期的計画のすごさを実感する。元々アンボセリの西と東に完全に分離されているアヌビスヒヒと黄色ヒヒのゲノムは、期待通り古代の交雑の痕跡はあるが、近年の交雑の痕跡は全くなく、いわば5万年前のネアンデルタール人と現生人類のような関係にある。ところが元々黄色ヒヒのアンボセリのグループには多量のアヌビスヒヒのゲノム流入を観察できる。即ち、他種間の交雑が境界では頻繁に行われていることを示している。

重要なのは、この研究では野外観察により詳細な家族歴が記録されており、ケースによっては他種間交雑による子供のゲノムも完全に把握できている。この結果、流入したアヌビスヒヒのゲノムを追うことで、相同性が低下することで、外来ゲノムが組み換え過程で自然選択される部位やレートが正確に計算でき、黄色ヒヒでは、アヌビスヒヒのゲノムは6%ほど相同性が低下しており、これがゲノムを排除する自然選択圧として働いている。まさに、ネアンデルタール人ゲノムについて想像されていることに一致する。

また、コーディング領域や、プロモーター領域は、種としての同一性を守る方向で選択されている。これを確かめるため、血液で発現している MRPL2 遺伝子の発現レベルを調べ、この領域にアヌビスヒヒのゲノムが入ると遺伝子発現が低下することまで確定している。即ち、両者が分離した後、それぞれが生息域に適応して獲得してきた形質を維持する方向に選択圧が働き、アヌビスヒヒのゲノムが排除されていることが、はっきりわかる。

以上、これまで我々の中にあるネアンデルタール人やデニソーワ人ゲノムについて想定されていたことと同じだが、家族歴が加わることで、想定が証明レベルに高まっている。しかし、このような研究を支える大学や国が存在することが、科学力だと思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    両者が分離した後、それぞれが生息域に適応して獲得してきた形質を維持する方向に選択圧が働き、アヌビスヒヒのゲノムが排除されている。
    Imp:
    流入ゲノム動態を実地で検証。
    今日、日本の“影響力ある論文発信順位”10位以内から転落!!の報が流れました。
    SNS上では、来年はイランにも抜かれるのでは?との憶測が。。。

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