ミクログリアは、胎児発生の早い段階で脳に分布し、脳内で独立したシステムを形成し、マクロファージと同じように、貪食や炎症に関わっている。これに加えて、神経細胞やアストロサイトとの相互作用を通してネットワーク形成や、神経活動に影響する。2019年に Science に発表されたカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文によると、自閉症患者さんの皮質表層部のミクログリアの遺伝子発現が、典型人の同じ場所のミクログリアとは異なることが示され、神経活動への重要な役割が示唆されている。
今日紹介するハーバード大学からの論文は、皮質各層のミクログリアの分布や性質が、それぞれの層に存在する神経細胞との相互作用で形成される可能性を示した研究で、8月10日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Pyramidal neuron subtype diversity governs microglia states in the neocortex(新皮質の錐体神経細胞の特性がミクログリアの性質を支配する)」だ。
新皮質は発生過程で異なる性質を持つ神経細胞からなる6層の構造を持っている。この研究では層構造とミクログリアに注目し、生後7日では新皮質各層に均一に分布しているミクログリア細胞が、14日目になると上層から下層に移るほど密度が低下することを発見する。
この変化が、各層の錐体細胞との相互作用によるのではないかと着想し、まず各層ごとにμグリアを分離し、single cell RNA sequencing(scRNAseq) で調べている。言うは易いが、各層を切り出し、ミクログリアをFACSで分離し、scRNAseqに供するのは大変な作業だ。
この甲斐あって、1-4層のミクログリアと、5層、6層のミクログリアの遺伝子発現が大きく変化していることを突き止める。重要なのは、例えば錐体神経の運命決定に関わる Fezf2 をノックアウトし、特に5-6層での神経分化が変化するマウスでは、ミクログリアの分布も変化することから、基本的には神経細胞によってミクログリアの性質が決められていることがわかる。
この研究では、scRNAseq のデータを組織上で再確認するために、組織上で75種類の遺伝子発現を同時に調べることが出来る MERFISH と呼ばれる方法を用いて、各層の神経細胞とミクログリアが協調して変化していることを明らかにしている。
最後に、各層の錐体細胞についても scRNAseq を用いて遺伝子発現を調べ、ミクログリアのデータと対応させ、相互作用に関わる可能性のある分子を特定している。結果はどれか一つの組み合わせというものではないが、それぞれの層で対応する表面分子の組み合わせが特定できる。この研究では、これまで発表されているデータに基づき、これら相互作用分子の組み合わせを5種類に分類し、上層部のみで起こる組み合わせ、下層部のみで起こる組み合わせ、そして全層での相互作用に関わる組み合わせが存在して、それぞれの層でのミクログリアの性質が決まっていくことを明らかにしている。その組み合わせの中には、L2/3 層で神経細胞の発現するセマフォリンとミクログリアでのプレキシンの組み合わせなど、発生学的には面白そうな組み合わせも示されているが、この研究ではそれぞれの分子を欠損させて、ミクログリアとの相互関係が壊れるかどうかは調べていない。
以上が結果で、最終的には新皮質各層のミクログリアが錐体神経の支配を受けていることを現象的に示した研究で、それぞれの相互作用の機能的意味については今後の研究が必要だ。ただ、手作業と、最新のテクノロジーを組み合わせた、ダイナミックな研究で、最初に述べた自閉症のミクログリア変化を調べる手がかりになる重要な研究だと思う。
新皮質各層のミクログリアが錐体神経の支配を受けている。
それぞれの相互作用の機能的意味については今後の研究が必要だ。
Imp:
神経細胞にばかり注目が集まりがち。
ミクログリアも神経活動(思考)に関与している可能性が、、、