最近 Nature に自律神経関係の面白い論文が3編相次いで発表されていたので、週末は、自律神経について勉強し直す意味でもこの3編の論文を紹介したい。
最初の論文はロックフェラー大学からで、病気になると誰もが共通に示す行動変化が起こるメカニズムについての研究で、9月7日 Nature にオンライン出版された。タイトルは「Brainstem ADCYAP1 + neurons control multiple aspects of sickness behaviour(脳幹の ADCYAP1 陽性神経細胞が病気にかかったときの様々な行動を支配する)」だ。
私の学生の頃読んだハンスセリエの Stress in Life のイントロダクションは、何十年もたった今も鮮明に覚えている。彼は医学部で病気を症状で分類する鑑別の講義を受けたとき、逆にほとんどの病気が熱や疲れなど共通の症状を持つことに興味を抱き、Just being sick という状態をテーマとして選び、ストレス学説を作り上げる。
このプロセスに副腎皮質ホルモンが深く関わるのだが、どうして just being sick といえる共通の症状が生まれる詳細なメカニズムについてはまだわかっていないことが多い。
今日紹介する論文では感染の代わりに LPS 注射を用い、注射により誘導される食欲減退、活動性の低下、そして深部体温の低下を直接支配する自律神経メカニズムを突き止めることを目的にしている。
LPS を注射して Fos 遺伝子の発現で反応細胞を調べると、200領域に反応が認められる。すなわち、LPS は脳神経細胞に直接強い興奮を誘導する。中でも、延髄にある内臓からの様々な情報を集めている孤束核と延髄最後野が注射後3時間たっても高い反応を維持していること、自律神経の重要な感覚中枢であることなどから、この領域に焦点を絞って研究している。
焦点が決まると、今は特定の神経を操作する方法が確立している。この研究では、それぞれの領域で刺激に反応した細胞(この場合 LPS に反応した)だけを選んで操作する TRAP と呼ばれる方法を用いて、孤束核、最後野の LPS に反応する細胞を刺激すると、LPS 注射と同じ効果を、特に孤束核刺激で見ることが出来る。逆に、この細胞の興奮を抑えてやると、LPS の効果は見られない。
次の実験では、LPS 刺激に反応した孤束核神経細胞を、single cell RNA sequencing で調べ、LPS で刺激を受ける細胞の特異的マーカーを探求し、最終的にアデニルシクラーゼ活性化ペプチド(ADCYAP1)を特異的マーカーとして使える可能性を突き止める。
後は、この遺伝子領域に Cre を導入し、この分子を発現する神経細胞の興奮を調節できるようにして、マウスの行動を調べると、孤束核の ADCYAP1 陽性神経細胞刺激によって食欲と活動性が低下することを確認している。
結果は以上で、just being sick という状態を、脳の活動に伝えるハブを決めた研究と言える。今後は、LPS 刺激がどのように感知されるのか、またこの領域の興奮が、脳全体にどう伝わるかを明らかにすることが必要になるだろう。
この過程にどの程度セリエのストレス経路が関わるかはわからないが、「具合が悪い」状態の理解は、ようやく具体的で面白い領域に発展しそうな気がする。
just being sickという状態を、脳の活動に伝えるハブを決めた研究だ。
Imp:
Bioelectronic Medicine領域の研究も着実に進展しているようです。
自分の学位論文研究とも関係していた領域でもあり関心あります。
https://en.wikipedia.org/wiki/Kevin_J._Tracey