最近のピーナツアレルギー予防の臨床研究を見ると、腸内でどのタイプのT細胞反応を誘導するかが、アレルギー発症に重要であるかがわかる。すなわち、早くからピーナツ油を摂取させると、抑制性T細胞(Treg)を誘導することが出来、その後のアレルギーを防げる。ただ、Treg が誘導されるメカニズムについてはよくわかっていない。
昨年、Science Immunology に UC サンフランシスコから、腸管には Aire を発現する特殊な樹状細胞(DC)が存在することが発表された。Youtubeでも紹介したように、Aire は胸腺上皮に、自己抗原の動物園を形成し、トレランスを誘導するのに必須の分子だ (https://aasj.jp/news/watch/19920)。そんな分子が腸管の DC に発現しているとすると、ひょっとすると自己抗原に対する Treg の教育が行われているのではと言う可能性が浮上し、わざわざローマ神話の神 Janus という名前がつけられた。
あれから1年、9月7日、Nature に、Janus 細胞及び ILC3 が腸管内で Treg を誘導している指令細胞であることを示す論文が3編オンライン発表された。その中から、最も系がすっきりしたニューヨーク大学 Littman グループの論文を選んで紹介する。タイトルは「A RORγt + cell instructs gut microbiota-specific T reg cell differentiation(RORγt+細胞が腸内細菌特異的Treg細胞の分化を指令する)」だ。
実験系をすっきりさせるために、この研究ではヘリコバクターに対するT細胞受容体トランスジェニックマウス由来T細胞を用い、この細胞をヘリコバクターが感染したマウスに移植したとき、Treg、濾胞ヘルパーT細胞(Tfh)、及び炎症性 Th17 細胞が誘導される実験系を用いている。すなわち、T細胞側は完全に一つに絞って研究が出来る。
この実験を、CD11 陽性細胞の MHC II をノックアウトしたマウスで行うと、他のT細胞は正常に誘導されるのに、全く Treg は誘導されない。すなわち、クラスII MHC がないと Treg が誘導できないことがわかる。
異なる分子をノックアウトしたマウスで同じ実験を繰り返し、RORγ 陽性、クラスII MHC 陽性、CCR7ケモカイン陽性、avβ8 インテグリン陽性の DC だけがあれば、Treg が誘導されること、ほかのT細胞にはこの細胞は必要ないことを明らかにする。また、それぞれの分子は Treg 誘導に必須であることを明らかにしている。
後は様々な実験を行い、Aire 陽性の Janus 細胞が必要なのか、ILC3 であればいいのかを検討しているが明確な結論は出ていない。Janus 細胞は Aire 発現で定義されるので、今後この遺伝子を ILC3 でノックアウトする実験が必要になるだろう。従って、結論としては、腸管内での Treg 誘導には、RORγ 陽性の ILC3 が必要十分条件であり、この存在が Treg が出来るかどうかを決めると言えるだろう。
RORγ陽性、クラスIIMHC陽性、CCR7ケモカイン陽性、αvβ8インテグリン陽性のDCだけがあれば、Tregが誘導されること、ほかのT細胞にはこの細胞は必要ないことを明らかにする。また、それぞれの分子はTreg誘導に必須であることを明らかにしている。