通常T細胞は上皮内には進入できない。というのも上皮は adherence junction 及び tight junction で組織化されており、他の細胞を寄せ付けない。この構造に進入する方策として、上皮以外の細胞は特別のメカニズムを発達させている。例えば色素細胞の場合、上皮と同じ E-cadherin を発現して上皮に進入する。一方、IEL と呼ばれる上皮に存在するT細胞は、E-cadherin 自体ではなく、E-cadherin と結合するインテグリンを発現して侵入を実現している。
では、IEL は何をしているのか。上皮という最前線で免疫防御を担っていると考えていいと思うが、今日紹介するニューヨーク大学からの論文は驚くことに、抗菌分子を産生する Paneth細胞を守る役割を IEL の一部が担っていることを示した論文で、10月5日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「The γδ IEL effector API5 masks genetic susceptibility to Paneth cell death( γδIEL のエフェクター分子 API5 は Paneth細胞の遺伝的死にやすさをマスクする)」だ。
少しややこしい論文で、経緯から説明する必要がある。このグループは、元々オートファジーや小胞体輸送に関わる分子の一つ ATG16L遺伝子変異がクローン病のリスクとして働いていることを研究しており、クローン病による炎症で、αβIEL は増加するにもかかわらず、γδIEL が減少し、これと平行して Paneth細胞が著減少していることに着目して、γδIEL と Paneth細胞の現象との関係を調べ始めている。
ATG16L変異を持つマウス小腸にウイルスが感染した後、オルガノイド培養を用いて調べると、Paneth細胞の減少を再現できるが、この系にγδIELを戻してやると、Paneth 細胞の減少を食い止められることをまず発見する。
次に、同じ実験系を用いて γδIEL 由来の Paneth細胞保護因子を探索し、ついに Apotosis Inhibitor 5(API5) が分泌されることで、Paneth細胞及び腸管上皮の細胞死が防がれることを明らかにしている。
しかし、慶応の佐藤さんが開発した腸管のオルガノイド培養がここまで複雑な実験を再現することにただただ驚く。
Paneth細胞保護作用は、ウイルスや細菌感染時だけでなく、T細胞受容体を欠損させIELを減少させたマウスでは、自然に Paneth細胞が減少するので、少なくともアポトーシスが誘導された細胞を守る働きがIELに存在することがわかる。また、上皮を硫酸デキストランで傷害する系でも、API5 の効果を確認している。
最後に、人のオルガノイド培養を用いて ATG16L の変異がある場合は、γδIEL や分泌される API5 が Paneth細胞保護効果を認められることを示し、人のクローン病の新たな治療の方向性になることを示している。
この論文では ATG16L が変異しない正常人での結果が全くないので、あくまでもこの変異を持つ人の話と考えられる。ただ、この変異は比較的多くの正常人でも認められるそうなので、下痢しやすいといった症状を持つ人は、クローン病でなくても、一度遺伝子を調べると役に立つかもしれない。
人のオルガノイド培養を用いてATG16Lの変異がある場合は、γδIELや分泌されるAPI5がPaneth細胞保護効果を示し、人のクローン病の新たな治療の方向性になることを示している。
Imp:
API5を通したPaneth細胞保護がクローン病治療の新たな標的に!