ダウン症の人はコロナの死亡リスクが10倍上昇していることが知られている。これは、これまで指摘されている獲得免疫系の低下を反映した結果だと考えられてきた。一方、自然免疫系についてみると、最も重要なインターフェロンシグナルを受ける受容体、IFNR1&2両方とも21番染色体に乗っており、原理的には遺伝子発現が1.5倍で、インターフェロンシグナルも強いと考えられる。従って、自然免疫ではウイルス感染抵抗性が強いはずだと考えられる。
今日紹介するマウントサイナイ医科大学からの論文は、ダウン症のインターフェロン反応性について調べ、初期の反応は正常人より高いものの、弱い刺激も強い刺激と解釈して、その後の反応性が強く抑えられることが、ウイルス感染感受性につながっていることを示した研究で、ダウン症のウイルス感染のための新しい診療プロトコル作成の必要性を示唆する研究だ。タイトルは「Excessive negative regulation of type I interferon disrupts viral control in individuals with Down syndrome(タイプ1インターフェロンの過剰な抑制調節機構がダウン症候群のウイルス抵抗性を傷害している)」だで、10月14日 Immunity にオンライン掲載された。
研究自体は淡々としたもので、古典的なシグナル研究と言っていいが、ダウン症の理解には重要な研究だ。まず、ダウン症ではインターフェロン受容体の発現が予想通り高いこと、またインターフェロンの刺激に対して正常より強い反応が起こることを、ダウン症のひとから分離した繊維芽細胞株を用いて確認している。
インターフェロンで刺激されると、強い炎症が引き起こされるので、通常それを抑える仕組みを細胞は備えている。次にそのインターフェロン反応を抑える分子を調べると、一度インターフェロン刺激を受けたダウン症の細胞では、抑制分子 USP18 が強く誘導され、その結果インターフェロンに反応できなくなっている。
また、遺伝子操作でインターフェロン受容体の量を変化させた細胞株を用いて同じ実験を行うと、最初受容体の発現が高い場合、最初の反応はより強く起こるが、その後無反応時期が長く続くことを明らかにしている。
そして、実際の患者さんの血液を使って、強いウイルス感染が起こったとき、最初は反応できても、その後の長い無反応期にウイルス感染が起こってしまうことを示している。また、試験管内の感染実験でも、ダウン症の細胞は最初は感染に対する強い反応を示すが、その後はほとんどウイルス感染に無防備であることを示している。
以上が結果で、ダウン症の子供でも、最初のインターフェロンの刺激が高くないと、不反応期に陥ることはないので、これを理解した上でコロナなどウイルス感染への治療方針を立てる必要がある。おそらく、抗ウイルス薬は必須で、間違ってもインターフェロンを投与しないことも重要になる。出来れば、インターフェロンの刺激を中程度で止める工夫が開発できればさらに優れたプロトコルが出来るように思う。その意味でこのような研究は重要だ。
1.ダウン症ではインターフェロン受容体の発現が予想通り高い。
2.インターフェロンの刺激に対して正常より強い反応が起こる。
imp.
21番染色体が増えるだけで”細胞の恒常性”は影響を受ける!