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8月27日:進化を巻き戻すII : マウスを魚化する(8月21日号Cell Reports掲載論文)

2014年8月27日
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38億年前地球上に生命が誕生してから、ヒトも含めて生命が関わるあらゆる過程は不可逆的散逸を繰り返して来た。このため過ぎ去った過去についての研究、進化研究は、過程を遡ることが原理的に出来ないと言う制限の中で行わざるを得ない。とは言えなんとか巻き戻したいと考えるのが人情だ。想像力でつなぎながらも、他人を納得させる形で時間の遡行を体験しようと様々な努力が繰り返される。試験管内で進化を巻き戻す、そんな研究の一つを8月12日紹介した。今日も「進化を巻き戻す第2弾」として、ドイツ・フライブルグのマックスプランク研究所からの研究を紹介する。我が国の国立遺伝研や京都大学も参加している研究で、8月21日 発行、Cell Reports誌に掲載されている。タイトルは「Conversion of the thymus into a bipotent lymphoid organ by replacement of Foxn1 with its paralog, Foxn4(Foxn1をそのパラログFoxn4で置き換えると胸腺がT,B両方の細胞発生を誘導するリンパ組織に変換する)。」だ。この研究を率いるThomas Boehmは胸腺の欠損したヌードマウスの原因遺伝子がFOXN1と呼ばれる転写因子であることを初めて特定した研究者で、それ以後ずっとこの遺伝子について研究している。FOXN1には同じ遺伝子から重複して来た兄弟遺伝子(パラログと呼ぶ)FOXN4が存在しており、魚類ではFOXN1,4両方が胸腺で発現している。一方哺乳動物ではFOXN1だけしか発現していない。機能的に比べると、魚の胸腺ではT,B両方の細胞が作られるのに、ほ乳動物ではほぼT細胞だけだ。B細胞は動物が陸上で生活し始めると、新しく出来た臓器、骨髄で作られるようになる。研究は、この機能の差が、FOXN遺伝子の発現パターンの差ではないかと仮説を立て、マウスの胸腺がFOXN4あるいは、FOXN1、FOXN4両方が胸腺で発現するように遺伝子操作をし、機能が魚型になるか調べている。両方のパラログ遺伝子はほとんど機能が同じと考えられ、FOXN1をFOXN4で置き換えてもT細胞を作る能力は保たれる。ただ、普通なら出現しないはずのB細胞もFOXN4で置き換えた胸腺では作られるようになり、胸腺の機能が少し魚に近づいた。これに励まされ、魚と同じように両方のFOXN遺伝子が胸腺で発現するように操作したマウスを作ると、FOXN4に置き換えただけのマウスと比べ、さらに多くのT,B細胞を作る胸腺に生まれ変わることが明らかになった。なぜこの変化が生まれるのかについてはFOXN4が胸腺で発現することで、T細胞への運命決定に必要なDLL4と未熟B細胞増殖に必要なIL7の発現にアンバランスが生じるためであることを実験的に示している。勿論詳細についての実験は今後も必要だが、実験的にマウスの進化を巻き戻すことに成功したと言っていいだろう。即ち、骨髄のない水生脊椎動物が陸に上がると、骨髄が現れる。これと同時に、胸腺や脾臓で作られていたB細胞だけが骨髄で作られるようになるが、その時FOXN4遺伝子の胸腺内発現を止めることで、胸腺からB細胞を骨髄へと追い出すというシナリオを実験的に確かめている。一種の実験進化学の研究だが、こうして生まれた魚型胸腺は再生医学にも役に立ちそうだ。魚型の胸腺を用意しておけば、T,B両方の細胞を試験管内でも作れるようになる可能性がある。8月24日号のNature Cell Biologyに発表した論文で、友人のエジンバラ大学BlackburnはFOXN1で線維芽細胞をリプログラムして胸腺上皮に生まれ変わらせ、そこでリンパ球を作らせることに成功している。この系にFOXN4も発現させればT,B両方を作ることの出来る魚型の胸腺が出来るはずだ。このように、生命科学では進化研究も再生医学もあまり違いがない。

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