ガンはゲノムに蓄積する突然変異を主因とするゲノムの病気と言えるが、同じガン組織にも様々な組織像が見られることは、多くのエピジェネティックな変化がゲノム変異に重なってガン細胞の性質を決めていることがわかる。従ってガンを理解するには、ゲノムと同時にエピゲノムについても調べることは重要だが、それを達成するのは簡単ではない。
今日紹介するロンドンのガン研究所からの論文は、大腸ガンでゲノムとエピゲノム同時解析にチャレンジした研究で、結果の多くは予想通りとは言え、方法論的にもよく考えられた力作で、10月26日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「The co-evolution of the genome and epigenome in colorectal cancer(大腸ガンに見られるゲノムとエピゲノムの共進化)」だ。
最近、ガン領域でも single cell technology 一色になってきており、遺伝子発現から染色体の状態まで、解析が進んでいる。中にはゲノムと遺伝子発現、あるいはクロマチンと遺伝子発現の両方を同時に見ることにチャレンジしている論文まで報告されるようになってきた。なぜ single cell テクノロジーが個々までのインパクトがあるのかというと、同じ組織でも細胞ごとにエピゲノムが違っているという認識があるからだ。とはいえ、ゲノム、エピゲノムを single cell level で同時解析して信頼性のあるデータを得るためのハードルはまだまだ高い。
この研究では single cell と従来のガン組織全体の解析の間で、ゲノム・エピゲノム同時解析に適した組織サンプルを検討し、大腸ガンをクリプトごとにサンプリングすることで、基本的には single cell 由来で、ゲノム・エピゲノム同時解析に十分な細胞数を得ることが出来ることを示している。これまで、ガン組織を異なる部位で分け解析することも行われていたが、それよりはもう少し精度がいい。
この方法で、なんとか全ゲノム解析から、エピゲノム、遺伝子発現まで調べることが出来たサンプルをなんと243も集めている。これだけの数になると、ソフトのパワーも重要になる。いずれにせよ、ゲノム・エピゲノム同時解析の条件を満たす組織を集め、データベースを作ったことがこの研究のハイライトだ。
後はこのデータベースから何がわかるかだが、面白いと思った点を以下に列挙しておく。
- この研究では同じクローンと思われるガン組織をさらに部分に分けてエピゲノムを調べており、ガンのエピゲノムが極めて安定に伝えられることを明らかにしている。当然と言えばそうなのだが、しっかり確認できることは重要だ。
- 大腸ガンとポリープの両方を同じように解析すると、これまで言われていたように、ポリープの段階でガン化に必要な遺伝子変異が蓄積しているのが見られるが、エピゲノム変化を見るとポリープではあまり大きくないが、ガンになると大きなエピゲノム変化が起こることを確認している。すなわち、実際にガン化を促すシグナルになるのはエピジェネティックな変化である可能性もある。
- エピジェネティックな変異は、ガン化に関わる遺伝子の発現を調整していることが多い。
- ガン化過程で共通に見られるエピジェネティックな変化は、a)免疫回避に関わるインターフェロン遺伝子発現抑制、b) ゲノムトポロジーを決める CTCF 結合部位、c) そして Hox など発生のプログラムがある。
- ガンの突然変異の入り方は様々な原因があり、mutation signature としてガンの成因を考える上で重要だが、これもエピゲノムのパターンに影響する。
他にも重要な結果が示されていると思うが、私が面白いと思った結果だけ紹介した。特に、ガンの引き金はエピジェネティックな変化かも知れないという話は面白いし、実験モデルで確かめられるのでさらに追求して欲しいと思う。
実際にガン化を促すシグナルになるのはエピジェネティックな変化である可能性もある。
imp.
大腸ポリープからの発癌。
塩基変化よりエピジェネティク変化の可能性が!
なかなか興味深いです。