何度も紹介したように、うつ病に対してはケタミンやシロシビンなど、他の目的で使われてきた向精神薬が効果を示すことがわかり、実際の臨床でその効果も確かめられつつある。しかし、他の目的で使われてきたと言うことは、抗うつ剤としての効果以外も存在すると言うことで、今後どのような問題が起こるのか注意深く観察が必要だ。
では、これまでの抗うつ剤はどうなるのか?これまで最も重要な抗うつ剤はセロトニン再吸収阻害剤で、気分を調節するセロトニンを取り込むポンプ(SERT)を抑制して、局所のセロトニン濃度を高め、うつ状態を回復させる薬剤で、生理学的にも納得できるし、高い効果を示すことが知られている。ただ問題は、セロトニンを合成している縫線核の細胞自体もセロトニンに反応し、この自己刺激によりセロトニンの分泌が抑えられることで、セロトニン再吸収阻害剤服用直後は、逆に症状が悪化し、この時期に自殺が高まる。
今日紹介する南京医科大学からの論文は、縫線核に特異的な SERT の細胞表面発現を調節する仕組みを解析し、この過程を操作できる薬剤を開発した面白い研究で、10月28日号 Science に掲載された。タイトルは「Design of fast-onset antidepressant by dissociating SERT from nNOS in the DRN( SERT と nNOS を分離させて抗うつ剤の効果を早める薬剤のデザイン)」だ。
この研究では、縫線核のセロトニン合成神経では nNOS が発現しており、セロトニンの作用で SERT と細胞内で結合することで、細胞膜での SERT 発現を抑えており、これにより縫線核が興奮して、セロトニン合成が低下することを明らかにしている。さらに、SERT と nNOS の結合を高める化合物を発見し、これによりうつ状態が高まることを示している。
この結果は、縫線核で SERT と nNOS との結合を阻害してやると、SERT が細胞表面に出て、セロトニンの細胞外濃度を低下させ、興奮が静まり、セロトニンが供給され、前頭葉などでの SERT 阻害剤の効果がすぐに現れることが期待される。
そこで、SERT と nNOS との結合部位を解析し、この結合に関わるポリペプチドを特定、これを細胞内に発現させることで、確かにこの結合阻害がうつ状態改善に効果があることを確かめている。
その上で、nNOS が SERT と結合する PDZ ドメインに入り込むディペプチド薬を開発し、これと SERT 阻害剤を組みあわせると、SERT 阻害剤の効果が投与直後から現れ、これまで問題になっていた効果の遅れと、投与初期のうつ状態の悪化がなくなることを示している。
この分野の研究はフォローできていないので、nNOS-SERT 結合と縫線核のセロトニン分泌の関係などの神経生物学から薬剤の開発まで、このグループがトップを切っているのかわからないが、そうだとすると中国の底力を示すいい例だと思う。
SERTとnNOSとの結合部位を解析し、この結合に関わるポリペプチドを特定、これを細胞内に発現させ、確かにこの結合阻害がうつ状態改善に効果があることを確かめた。
Imp:
SERTとnNOSの関係が鬱と関係している可能性あり。