現役時代は、1型(ウイルス、細胞内細菌抵抗性)、2型(寄生虫抵抗性)免疫反応というと、T細胞の機能分化で済んでいた。ところが、その後の研究の進展で、T細胞だけでなく異なるタイプの Innate lymphoid cell (ILC) がそれぞれの反応に大きく関わっていることがわかってきた。
このILCも、現役時代はリンパ組織誘導細胞 LTi と呼んでおり、京大時代、現在、OIST理事長の P.Gruss研究室から移ってきた横田さんや、熊本大学から移ってきた吉田さん、そして大学院生だった現慶応大学教授の本田さんなどによって、Id2、IL7、Lymphotoxin などで調節される分化経路が明らかにされた。しかしその時、Id2依存性に分化してきた ILC前駆細胞から、1、2、3型免疫に対応する ILC1、ILC2、ILC3が分化するとは想像も出来なかった。
しかし、CD4T、CD8T、そして ILC とそれぞれの免疫反応にセットで関わることで、免疫システムは複雑化し、Covid-19の様に、病気の経過が極めて複雑な状況が生まれてしまう。
当然、T細胞、ILC それぞれをノックアウトした動物で免疫反応を調べることが望ましいが、ILC に関してはそれぞれのタイプを欠損させることは簡単ではなかった。今日紹介するドイツ・ベルリンのシャリテ医科大学からの論文は ILC2分化に Neuromedin U受容体シグナルが必須であること特定し、ILC2 を選択的に除去したマウスでその機能を調べた研究で11月2日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Non-redundant functions of group 2 innate lymphoid cells(グループ2 innate lymphoid cellの代換えが効かない機能)」だ。
ILC2 の最終分化は T細胞と同じで GATA3 とされてきたが、この研究は Neuromedin U受容体(Nmur1)の発現が、完全に ILC2 特異的であることを発見し、この遺伝子を Id2 陽性細胞でノックアウトしたマウスを作成し、このマウスが2型免疫反応の重要なサイトカイン IL5 が欠損したのと全く同じ形質を示すことをまず明らかにする。
IL5 欠損マウスは白血球の中でも好酸球の分化に必須だが、Numr1 ノックアウトマウスでも、好酸球の最終分化が完全に抑制されている。以上の結果は、これまで Th2 の役割とされてきた組織での IL5 分泌や好酸球分化促進のほとんどは ILC2 がになっていることがわかる。
また、ILC2 の遺伝子発現から、好酸球だけでなく、上皮など様々な細胞を刺激し、2型免疫の場を作る主役であることも明らかになった。
最後に、2型免疫反応が受け持つ寄生虫感染が ILC2 欠損によりどう影響されるか調べ、回虫感染実験を行い、
- 回虫の増殖は ILC2 除去で著しく高まる。
- 好酸球の感染局所へのリクルートは完全に阻害される。
- Th2 細胞は正常にリクルートされる。
- 白血球全体の浸潤も低下し、また寄生虫に対する上皮の反応も低下する。
などを明らかにしている。
少し飛ばして紹介したが、要するに寄生虫免疫や喘息反応では、ILC2 が Th2 より大きな役割を演じている可能性を示す論文で、特に喘息では新たな治療法の開発、例えば Numer1 阻害などが期待できるような気がする。
1:Th2 の役割とされてきた組織での IL5 分泌・好酸球分化促進のほとんどは ILC2 がになっている。
2:ILC2 の遺伝子発現から、好酸球だけでなく、上皮など様々な細胞を刺激し、2型免疫の場を作る主役である。
Imp:
ILC2が“要”であることが明らかに。
2型免疫制御の新たな標的発見!?