リン酸化され凝集した Tau蛋白質が、あたかもプリオンのようにシナプス結合を介して神経から神経へと伝搬することを知ったときには驚いた。Tau が PET で見られるようになりわかってきたアルツハイマー病(AD)の進行経過もこれを裏付けている。
今日紹介するインディアナ大学からの論文は、Tauと結合して安定化させ伝搬を助ける役割を持つ蛋白質Bassoonを特定した研究で、11月7日 Nature Neuroscience にオンライン掲載された。タイトルは「Bassoon contributes to tau-seed propagation and neurotoxicity(BassoonはTauの播種と神経毒性に関わる)」だ。
Tau の生化学の論文はあまり読んでいないので、この論文の位置については評価できないが、研究では変異型Tau を導入したマウス神経を用いて Tau と結合している分子の特定を行っている。
方法は一種の力仕事で、プロ凝集型Tau が集まると FRET と呼ばれるエネルギー伝達システムが働いて光を発するアッセイ系に、神経抽出物を大きさで分画し、それぞれの分画をこの系でトランスフェクションし、光を発する分画を、播種型Tau として特定する方法で、Tau と結合する分子コンプレックスのサイズをまず決定している。
かなり大きな分子分画が得られ、その中には様々なシナプス小胞輸送に関わる分子が特定されてきたが、この研究ではこれまでも Tau との関わりが指摘されていた Bassoon(BSN) に注目して、これが Tau播種に関わるかを様々な系で調べている。結果だが、
- AD患者さんの神経細胞でも、同じ分画が播種能を持っており、また BSN は変異型Tau と細胞内で結合している。
- ショウジョウバエの視神経を用いる方法で、BSN が過剰発現し、変異型Tau を持つハエでは、視神経の変性が起こる。
- アデノウイルスを用いた遺伝子ノックダウンを新生児脳でおこない、成長後変異型Tau を導入する方法で調べると、Tau の播種が BSN発現を抑えることで強く抑制できる。
- BSN は変異型Tau の安定性を保ち、蛋白分解酵素から守ることで、その播種を助ける。
- BSN をノックダウンしたマウスでは、認知機能が改善し、また海馬の神経興奮機能の低下を抑えることが出来る。
以上が結果で、Tau の播種と言っても、その背景には様々な分子が関わっていることがよくわかった。おそらくノックアウト実験を行えば他の分子も播種に関わっている可能性が出てくるだろう。このプロセスが明らかになると、AD の全く新しい治療法につながるかも知れない。
BSNをノックダウンしたマウスでは、認知機能が改善し、海馬の神経興奮機能の低下を抑えることが出来る。
imp.
ADの新たな治療標的過程になりそうです。