蛋白質に加えられたマンノース6リン酸修飾を利用して体外から投与した酵素をリソゾームに送り込み、リソゾーム病と呼ばれる様々な酵素欠損の酵素置換療法が開発され、既に30年が経過している。この治療が成功するためには、できるだけ早く遺伝子スクリーニングで患者さんを見つけ出し、不可逆的変化が軽度のうちに治療を始める必要がある。親が保因者であることがわかっている場合は良いが、そうでない場合は、診断確定が最も高いハードルかも知れない。
ただ、病気によっては保因者であることがわかっていて、生後まもなく診断が可能でも手遅れの病気が存在する。その一つが乳児型のポンペ病で、αグルコシダーゼ(GAA)活性が完全欠損するため、グリコーゲンが筋肉に蓄積するため、生まれたときから拡張性心肥大を持っており、生後まもなく治療を始めても、生後2年以内に死亡する確率が高い。
このような胎児期に発生するリソゾーム病の酵素置換療法を、胎児発生の早くから行う方法がマウスで開発されていたが、この治療を乳児型ポンペ病に対して行ったのが、今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文だ。タイトルは「In Utero Enzyme-Replacement Therapy for Infantile-Onset Pompe’s Disease(幼児期発症ポンペ病の子宮内酵素置換療法)」で、11月9日 The New England Journal of Medicine にオンライン掲載された。
今回胎児酵素置換療法の対象になった子供は、7番目の子供で、それ以前に生まれた兄弟姉妹のうち3人が幼児型ポンペ病で死亡しており、また1人は流産している。このため、ポンペ病の可能性を絨毛採取と呼ばれる出生前診断法を用いて、遺伝子診断を行い、グルコシダーゼ分子が全く作られないポンペ病と診断している。
診断後、妊娠24週目から臍帯静脈に2週ごとに酵素製剤が投与され、出生後も2週間隔で投与を続けている。この患者さんでは、グルコシダーゼが全く作られないので、抗体により投与酵素の吸収が阻害される可能性があるため、免疫抑制療法と、それを補う意味で免疫グロブリン注入も合わせて行っている。
この患者さんについては、これまで同じ病気で死亡した兄弟姉妹のデータがあるので、それと比べることで効果を判定している。
結果だが、なんと言っても24週からの投与で、拡張性心肥大が全く抑えられている。また、胎盤の組織を調べるとグリコーゲンの蓄積像が全く見られない。
また、生後の成長も順調で、筋力低下はほとんどでみられず、患者さんは11.5ヶ月目に自立歩行することに成功している。
以上、基本的には今後も置換治療を続ける必要があり、また免疫抑制も続ける必要があるが、治療が成功したと結論している。
今後の課題だが、おそらく免疫抑制治療と酵素置換治療を生涯続ける必要がある点だろう。胎児治療により酵素に対する免疫トレランスが誘導できる可能性が期待されているが、残念ながら酵素に対する抗体が低いとはいえ生産されている。従って、今後は胎児治療時に免疫トレランスを誘導するとともに、酵素の体内での合成分泌が起こるような細胞治療や、遺伝子治療を組みあわせ、完全に静脈注射から解放された治療法を目指すことになるだろう。いずれにせよ、完治のための方策が明確になったことが大きい。
1:妊娠24週目から臍帯静脈に2週ごとに酵素製剤が投与し、出生後も2週間隔で投与を続けた。
2:免疫抑制療法と、それを補う免疫グロブリン注入も合わせて行っている。
3:結果だが、24週からの投与で、拡張性心肥大が全く抑えられている。
胎盤の組織を調べるとグリコーゲンの蓄積像が全く見られない。
Imp:
胎児遺伝子細胞治療へ進展の可能性にワクワクしました。