今日もアルツハイマー病(AD)に関わる研究を取り上げることにした。今日紹介する論文は、プリオンの生物学でノーベル医学生理学賞を受賞したカリフォルニア大学サンフランシスコ校 Prusiner研究室からの論文で、同じアミロイドβ が蓄積して認知障害が発生するダウン症と AD を、アミロイド β(Aβ) や Tau のプリオン活性の面から比べた研究で、11月7日米国アカデミー紀要にオンライン掲載された。タイトルは「Aβ and tau prions feature in the neuropathogenesis of Down syndrome(ダウン症候群の神経病理は Aβとtau のプリオンが主役として働く)」だ。
ダウン症(DS)は21番染色体が3本に増えた結果起こる様々な障害の集まりだが、症状の一つに早期に始まる AD様症状が知られていた。21番染色体には、Aβ の前駆体となる APP遺伝子がコードされており、Aβ の合成量が高まる結果、ADリスクが高まると考えられてきた。
Prusiner研究室では、プリオン病として確立しているクロイツフェルドヤコブ病だけでなく、様々な神経変性疾患に、感染性のプリオン蛋白質が関わる可能性を追求してきており、Aβ や tau の異常蛋白質の中に、同じ異常構造を増幅する機能を持つプリオン活性が存在することを検出するための実験系を整備してきた。
この研究では、蛍光蛋白質が結合した Aβ や Tau を発現した細胞に、患者さんのプラークを感染させ、蛍光蛋白質の集合を誘導する、超迅速プリオン検出系を用いて DS患者さんの脳組織に存在する感染性 Aβ-プリオン、tau-プリオンを調べている。
AD患者さんでは Aβプリオンや、tauプリオンの存在は既に検出されているが、DS でも同じように感染性プリオンを検出することが出来る。予想通り AD と比べたとき、若い時からプリオン活性が認められる。面白いのは、Aβプリオンだけが認められ、tauプリオンが認められない、19歳、25歳の DS患者さんが見つかったことだ。30歳以降では、常に両方のプリオンが存在することから、この結果はアルツハイマー病が Aβ蓄積から始まり tau蓄積へと拡大する病気であることを示唆している。さらに、プリオンという観点から言うと、どちらの分子もプリオン活性を獲得して伝搬するダブルプリオン病であることが示唆される。
この研究の最大のハイライトは、老化とともに病気が進行した後のプリオン活性が、AD では低下するにもかかわらず、DS では上昇し続けるという発見だ。ADでプリオンが老化とともに低下するのは、散発性のADでも遺伝性の AD でも同じで、また Aβ も tau も同じ傾向を示す。特に Aβ ではその傾向が著明で、なんと40歳ぐらいから低下傾向が見られるようになる。
この原因は、プラーク形成と、プリオン活性が相反しているからと考えられるが、だとすると DS でも同じ傾向が見られていいはずなのに、DS のヒトのプリオン活性は Aβ も tau も上昇し続けている。
結果は以上で、寿命の問題から、60歳以上の DSケースが調べられていないので、一般の AD と完全に比較することは難しく、この発見の意味を理解するためには、さらなる研究が必要だ。いずれにせよ、続けて紹介した3編の論文は、AD も見方を変えると、全く異なる課題が見えてくることを教えてくれた。
21番染色体には、Aβ の前駆体となる APP遺伝子がコードされており、Aβ の合成量が高まる結果、ADリスクが高まると考えられてきた。
imp.
やっぱりアミロイドβ説か?
でも創薬はうまくいってない雰囲気が漂う!
悩ましいけどワクワク感も煽る。
二転三転ありそうな注目分野です。