非アルコール性肺炎はインシュリン抵抗性や、幹細胞の脂肪代謝異常が原因の代謝病だが、その結果、細胞ストレスから炎症が起こり、細胞死、そして繊維化による肝硬変へと進展する。それぞれの過程が治療対象となり、最も重要なのは代謝異常を抑え、炎症への進行を抑えることだが、肝炎へと発展した場合は治療が難しい。
炎症が始まった後での一つの治療方法は、ストレスによる肝臓のアポトーシスを抑えて進行を食い止めようとする治療が知られているが、うまくいっていない。今日紹介するコロンビア大学からの論文は、細胞死のスイッチが入った細胞を積極的に除去することで、肝炎の進行を抑えることができることを示した論文で、11月2424日 Science に掲載された。タイトルは「CD47-SIRPα axis blockade in NASH promotes necroptotic hepatocyte clearance by liver macrophages and decreases hepatic fibrosis(CD47-SIRPα軸の抑制はNASHのネクロプトーシスが起こった肝臓細胞のマクロファージによる除去を促進し肝臓の繊維化を抑える)」だ。
マクロファージが、間違って自分の細胞を貪食しない様に「don’t eat me」と旗を立てる印の一つがCD47だ。この研究では、非アルコール性肝炎(NASH)で、RIP3/MLKL により制御されたネクローシス=ネクロプトーシスに陥った細胞で、異常に高い CD47 が発現していることを発見する。また、マウスで RIP3 を活性化するモデルで肝細胞のネクロプトーシスを誘導しても、同じ様に CD47 が強く誘導されることを確認している。そこでこのマウスモデルで、これまでの様にネクロプトーシスを抑制するのではなく、逆に CD47 の機能を抑制して、死にかけの細胞を除去してしまったら、炎症は鎮まるのでは無いかと着想している。
肝臓細胞で RIP3 を活性化させた細胞に CD47 抗体を投与し肝細胞が除去される様にしてやると、マクロファージは肝細胞の貪食を行い、その結果炎症が低下し、また肺の繊維化誘導分子の発現が抑えられることを確認している。
CD47 はいくつかの分子と結合するが、マクロファージによる貪食を防ぐのはマクロファージ上の SIRPα で、また NASH では SIRP2α の上昇も見られるので、この分子を抗体で抑制しても、同じ様に炎症の低下と肝臓の繊維化が誘導される。すなわち、CD47 を介したマクロファージの貪食が炎症を高め、繊維化を促していることになる。
結果は以上で、老化を始めた細胞を積極的に殺す senolysis により老化抑制と同じで、死にかけの細胞を積極的に除去することで、炎症と繊維化を抑えることができることを示している。ただ、人間の実際の肝臓でも同じ様に NASH が抑えられるのかはわからない。特に CD47 に対する抗体投与により、正常細胞に障害がおこる可能性があるので、よほど注意して治験を行う必要がある。
マウスの実験だとしてもネクロプトーシスを抑えるのではなく、逆にマクロファージの除去機能を促進して、死にかけの細胞を除去することで肝臓の炎症を抑えられるという結果は、シンプルな実験ではあっても、極めて面白い。今後 NASH にとどまらず、他の病気でも同じ方法で繊維化を遅らせる可能性が出てきたと思う。
老化を始めた細胞を積極的に殺す senolysis により老化抑制と同じで、死にかけの細胞を積極的に除去することで、炎症と繊維化を抑えることができることを示している。
imp.
老化!
最近、様々な疾患の背景として注目度up中!
老化細胞の選択的除去が治療になる可能性あり!