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8月30日:腸内細菌の善玉と悪玉は区別されている(8月28日号Cell誌掲載論文)

2014年8月30日
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昨日は腸内細菌叢の面白い論文が2報も見つかったので、今日、明日と紹介する。次世代シークエンサーが開発されて腸内細菌叢のDNA配列を無作為に決定することで、腸内にどの細菌がどの程度存在しているかを測定することが可能になった。ただ病気と腸内細菌叢の関係を研究したい時この方法にも問題はある。先ず私たちの腸内細菌叢には何百、何千もの異なる細菌が住み着いている。それぞれの量が測れたとしても、どの細菌が病気の原因になっているかを突き止めるのは簡単ではない。このため、病気になった時に大きく変化する細菌種を調べることでこの問題に対処して来たが、もう少し合理的な方法が求められていた。今日紹介するエール大学医学部からの論文は、クローン病や潰瘍性大腸炎の様な炎症性腸疾患に関わる細菌を特定する新しい方法を報告した論文で、8月28日号のCell誌に報告された。タイトルは「Immunoglobulin A coating identifies colitogenic bacteria in inflammatory bowel disease(IgAによりコーティングされている細菌は炎症性腸炎を引き起こす原因菌だ)」だ。この研究では、腸炎の原因菌ほど宿主の免疫反応を刺激しているはずで、そうなら腸内に分泌されるIgA抗体と結合しているはずだという仮説を立て、これをマウスで確認する所から始めている。先ずマウスの便を採取し、そこに存在する細菌にIgAを認識する蛍光抗体を反応させ、どの細菌の表面にIgAがコートされているか調べた。予想通り、一部の細菌だけが腸内でIgA抗体と結合していた。この結果は、腸内細菌の一部だけが宿主の免疫反応を刺激しており、免疫刺激性の細菌はIgAでコートされているかで見分けられることを示す。次にIgAコートされた細菌の種類を調べると、これまで腸炎に関わるとされて来た細菌が濃縮されている。それをもう一度マウスに戻して、IgA抗体反応を刺激し、腸炎を起こすか調べると、コートされていない細菌より強い反応が見られる。この結果は、IgAコートされた菌が腸炎原因菌であるという仮説を支持する。次にヒトでも同じ事が見られるか、先ずクローン病や潰瘍性大腸炎患者と、正常人でIgAコートされた細菌の種類を調べると、腸炎患者さんでIgAコートされた細菌の数が増加しており、この方法でそれぞれの病気だけで検出される細菌を特定することが出来ている。最後にこうしてヒトで特定された細菌が本当にIgA抗体反応を刺激し、腸炎を引き起こすかもマウスに菌を移植して調べている。IgAコートされた菌を植えると、確かにIgA抗体反応が起こる。しかしこの菌だけでは腸炎は起こらない。そのマウスに、腸炎を起こすことが知られているデキストラン硫酸ナトリウムを投与すると、IgAコートされた細菌によって腸炎が重症化することがわかった。今のところわかったのはここまでで、なぜ腸炎原因菌だけが抗体反応を刺激するかなど多くの問題は残る。しかし、原因菌が特定されたことで、これらの菌を特異的に撲滅して、クローン病や潰瘍性大腸炎を治癒できるのではと期待させる結果だ。この分野の加熱ぶりを実感させる論文だった。

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