禁煙を勧めるとき、解剖標本、あるいは手術時のスモーカーとノンスモーカーの肺を見せて、スモーカーが黒い粒子を取り込んだマクロファージに満ちていることを示し、ぞっとさせるのは常套手段になっている。しかし、今日紹介するコロンビア大学からの論文は、ノンスモーカーでも肺のリンパ節を見ると、黒い粒子が驚くほど蓄積していることを示し、これが高齢者の免疫機能を阻害していることを示唆するぞっとする研究で、11月21日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Inhaled particulate accumulation with age impairs immune function and architecture in human lung lymph nodes(年齢とともに蓄積する吸入粒子は肺所属リンパ節での免疫機能を抑制し、リンパ節の構造を破壊する)」だ。
研究ではノンスモーカー、あるいは1日20本以上の喫煙を1年以上続けたことがない人の、剖検時のリンパ節標本を採取、大気中の炭素化合物粒子の蓄積度を調べている。と言うより、この研究では、他の臓器の状態についての情報などは全く示されず、リンパ節の組織を見ただけの研究とすら言える。
しかし、結果を目の当たりにするとインパクトは大きい。腸管の所属リンパ節はベージュ色で透き通っているのに、肺所属リンパ節は年齢とともに黒くなり50歳を超すとほぼ真っ黒と言ってもいい。
蓄積は T細胞領域にいる貪食能の強い CD68+CD169- マクロファージで起こっている。残念ながら個体レベルで免疫反応を調べることは出来ない。また、サンプルをとった方の免疫状態などの情報もない。しかし、取り出したマクロファージ、あるいは炭素粒子を取り込ませたマクロファージを使って、バクテリアなどを標的とした貪食能を調べると、貪食が強く低下している。さらに、リンパ節内で高齢者のリンパ節マクロファージを調べると、活性化の指標である CD86 などの発現が低下していることも明らかになった。
次に、リンパ節内で炭素化合物粒子を取り込んだマクロファージのサイトカイン発現を調べると、年齢を問わずインターフェロン、TNFαの発現が低下している。さらに重要なことは、粒子を取り込んだ周りへのリンパ管の結合が強く低下しており、濾胞形成も含めてリンパ節構造も異常を示している。
主な結果は以上で、正直、よく採択されたなという印象だが、見た目からも結果のインパクトは高い。すなわち、肺から移ってきた粒子を詰め込んだマクロファージがリンパ節で入れ墨のように維持されることがまず驚く。もし著者の結論を全て鵜呑みにして、高齢者が mRNAワクチンを接種するという点から少し考察しておこう。
まず、mRNAワクチンの場合、貪食能の低下は問題ないだろう。ただ、リンパ管の機能が低下しているとすると、所属リンパ節へワクチンが移動する時間は少し余分にかかるだろう。ただ、免疫反応という点で見れば、遅れても問題はない。ただ、リンパ節の構造変化や、濾胞形成の異常は、間違いなくワクチン効果は低下すると思う。
以上、我々が毎日すっている大気がいかに汚染されているか再認識させられた。
腸管の所属リンパ節はベージュ色で透き通っているのに、肺所属リンパ節は年齢とともに黒くなり50歳を超すとほぼ真っ黒と言ってもいい。
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やはり、脱炭素化社会を目指すべきなのかも!