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12月20日 人工Notch-IL2回路は固形ガンに対するCAR-T治療の切り札になるか(12月16日 Science 掲載論文)

2022年12月20日
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CAR-T 治療は、既に何年も臨床で利用され、抗原特異的免疫治療がガンに確実に効果があることを示した。同時に、ガンが標的抗原を発現しているのに、全く効果が見られないケースが多く存在することがわかってきた。特に、固形ガンではガン特異的抗原が存在しても CAR-T は無力なことが多く、例えばいくつかの腫瘍特異的抗原の存在が特定されている膵臓ガンはもとより、メラノーマでもまだ臨床応用にこぎ着けられていない。

この原因にはいくつかあるが、注射した細胞がガン組織に浸潤できないことと、ガン組織内に入った T細胞の機能が抑制されることが主な要因で、これを克服する方法の開発は大きな資金を集めて開発が続いている。これは当然で、腫瘍特異的抗原が同定され、ガン組織へ CAR-T を遊走させ、機能を発揮させられることが可能になれば、これまでの免疫治療は CAR-T に収束してしまう可能性すらある。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、先日紹介した、Notchシグナル系を、細胞外も細胞内も異なる分子に置き換え、遺伝子発現を調節する人工Notchを用いることで、ガン特異的な抗原に反応して、一定のレベルの IL-2 が分泌できる CAR-T が固形ガンに浸潤してガンの増殖を抑制できることを示した研究で、12月16日 Science に掲載された。タイトルは「Synthetic cytokine circuits that drive T cells into immune-excluded tumors(人工サイトカイン回路はT細胞を免疫系を排除する腫瘍にも侵入させる)」だ。

CAR-T がガン局所で増殖できるよう、IL-2 や変異型IL-2 を用いる研究や治験は行われてきた。また最近では CAR-T に IL-2 などのサイトカイン遺伝子を導入して、CAR-T の機能を高める研究も数多く行われてきた。

その中でこの研究は、ガン特異的 CAR-T に、同じガンの発現する分子でトリガーされれ IL-2 を分泌する人工Notch を導入した T細胞を作った点が、これまでの研究とは異なる。

この研究でも、例えば常に IL2 を発現するようにしたコンストラクトや、T細胞が抗原刺激されたときに IL-2 を発現する様にした CAR-T も作成し比べているが、固形ガンにはほとんど効果がない。ところが人工Notch シグナルで IL-2 を分泌できる様にした細胞は、膵臓ガンをはじめ、メラノーマなどいくつかの固形ガンに高い効果を示す。膵臓ガンではメゾセリン、メラノーマでは NY-ESO のように、臨床応用が試みられうまくいっていない抗原を用いた実験系で、効果があることを示している。

この研究で驚いたのは、よく用いられる免疫不全マウスに腫瘍を移植し、そこに CAR-T を注入するモデルで効果があっても、正常マウスでホストのリンパ球が存在する条件では、全く効果を示せないことが多いことを示している点で、ホストのリンパ球が全て揃った条件で効果を確かめることの重要性がよくわかった。そして、この条件でも効果があるのは人工Notch で IL2 を分泌する系だけと言うことが示されている。

まだ動物モデル段階だが、治療の難しい膵臓ガンには、すぐにでも試されるのではないかと期待できる結果だ。

臨床応用を進めるためにも、なぜ人工Notch-IL2がこれほど優れているかを理由を確かめる必要があり、腫瘍組織で他のCAR-T系と比べている。結果だが、何よりも腫瘍組織内への浸潤が強い。また IL-2 を分泌するため抑制性T細胞などの誘導が心配されるが、軽度で終わっており、基本的に CAR-T の分泌した IL-2 は CAR-T 自身が使える状態で、腫瘍組織の他の細胞では利用しにくいことが明らかになった。

個人的印象だが、これは大きなブレークスルーになる気がする。現在 CAR-T は、自分の T細胞でなく、内因性の受容体をノックアウトした off-shelf型の CAR-T をあらかじめ用意する方向に進んでいる。この系に人工Notch を組み込むことは簡単だろう。希望的観測だが、1−2年で臨床まで行くような気がする。

  1. okazaki yoshihisa より:

    Notchシグナル系を、細胞外も細胞内も異なる分子に置き換え、遺伝子発現を調節する人工Notchを用いるCAR-Tが固形ガンに浸潤してガンの増殖を抑制できることを示した研究!
    Imp;
    細胞コンピューティングは‘癌‘を制圧できるのか!?
    Bispecific抗体(タンパク質コンピューティング)と、どちらが本命なのでしょう?
    目が離せない領域の一つです。
    発信源はアメリカ西海岸の合成生物学研究拠点=Wendell Lim研究室からですね。

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