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1月24日 骨に存在するリンパ管の役割(1月19日号 Cell 掲載論文)

2023年1月24日
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現役時代は骨髄造血についても研究していたが、骨や骨髄にリンパ管が存在するかどうか考えたこともなかったが、その一因はそもそもリンパ管の様子を組織学的に調べるのが難しいためだ。その結果、脳内のリンパ管の存在が広く認められるようになったのはついこの前のことだ。

今日紹介するオックスフォード大学からの論文は、骨のホールマウント染色を工夫して骨髄を含む骨全体のリンパ管を観察できるようにし、放射線照射後の骨リンパ管のダイナミックスやその役割について調べた研究で、1月19日号 Cell に掲載された。タイトルは「Lymphatic vessels in bone support regeneration after injury(骨のリンパ管が傷害後の再生を支持している)」だ。

なんと言ってもこの研究のハイライトは、マウスの骨を脱灰も含む様々な処理をして見えるように出来たことだ。その結果、骨の中でもリンパ管が血管の中に見事に染め上げられており、骨端に近づくにつれリンパ管の密度が上昇していることがよくわかる。

あとは、リンパ管のダイナミックスを見るため、放射線照射+骨髄細胞移植後の再生に焦点を絞り、リンパ管の変化を観察している。驚くことに、放射線照射により骨全体でリンパ管の密度は15日をピークに急速に上昇し、骨や骨髄の再生に何らかの役割を持つように見える。

そこで、リンパ管の増殖に必須の VEGFR3 に対する阻害剤、あるいはリンパ管特異的にジフテリアトキシンを発現させてリンパ管を除く方法を用いて、リンパ管の増殖を止めたときに、造血や骨再生が受ける影響について調べている。

結果は明瞭で、血液幹細胞の骨髄での維持や、骨の再生が強く阻害される。すなわち、放射線照射後の骨リンパ管の増殖が、骨髄造血や骨の再生に密接に関わることを示している。

このメカニズムを探ると、阪大の長沢さん達により示された骨髄造血細胞ニッチ分子、CXCL12 をリンパ管が分泌し、この分泌を遺伝的にノックアウトすると、造血幹細胞の骨髄での維持が著しく阻害される。

骨の再生で見ると、血管外皮由来の、いわゆる多能性を持つ間質幹細胞も CXCL12 の働きにより増加し、骨芽細胞に分化して骨の再生を促進する。事実、この細胞を特異的に除去する遺伝操作により、放射線障害時の骨の再生が低下する。さらに、同じ細胞は骨髄の造血細胞ニッチにも分化し、血液細胞の造血支持にも関わることを示している。最後に、老化とともにリンパ管内皮細胞の修復力が低下することも示している。

以上が結果で、これまで全く忘れ去られていたリンパ管を骨や骨髄再生に位置づけることで、全く新しいシナリオが生まれることを示している。特に造血を支えるニッチについては、骨に接する間質細胞、血管内皮など様々な可能性が追求されているが、リンパ管内皮が CSCL12 を発現することは、これまでのデータも新しい目で再検討する必要を示唆している。

  1. okazaki yoshihisa より:

    放射線照射後の骨リンパ管の増殖が、骨髄造血や骨の再生に密接に関わることを示している。
    骨髄造血細胞ニッチ分子CXCL12が鍵の一つ。
    Imp;
    骨リンパ管が再生に重要な働きをしていたとは!
    また、一つ新たな機能が判明!

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