光遺伝学のおかげで、生きたマウスの特定の神経回路を刺激する事が可能になり、脳活動の解明が進んでいるが、特に本能行動を支える脳回路の研究の進展は著しい。そんな中でも、今日紹介する性行動を促すタッチセンサー回路についてのコロンビア大学からの論文は、読者の様々な想像を膨らませる面白い研究だ。タイトルは「Touch neurons underlying dopaminergic pleasurable touch and sexual receptivity(快楽のタッチと性行動受容に関わるドーパミンを誘導するタッチ神経)」で、1月23日 Cell にオンライン掲載された。
愛撫に代表されるような柔らかで緩やかな動きに対するタッチ感覚は、ゆっくり伝達される Cファイバーによる触覚、C触覚として知られている。そして、最近の研究でこのような触覚に関わるメカノセンサーとしてMrgprb4 が特定されており、この研究ではこのメカノセンサーを発現する C触覚回路を光遺伝学的に操作できるマウスを開発して、この回路刺激によるマウスの行動を調べている。
この神経に続く回路や Mrgprb4発現の特異性など、基礎的な検討はすっ飛ばして、Mrgprb4刺激が誘発する行動解析に進むことにする。Mrgprb4神経は全身に存在し、性行動に関わる生殖器から肛門にかけての皮膚にも発現があるが、背中一部の皮膚Mrgprb4神経を光で刺激するだけで、マウスはのけ反り反応を示し、快楽刺激が起こっていることがわかる(少し脚色して紹介している)。
さらに面白いのは、Mrgprb4を発現する神経細胞にジフテリアトキシンを発現させて除去すると、オスとメーティングさせたとき、普通はオスを受け入れる回数が経験と共に上昇していくのに、Mrgprb4神経が除去されていると、逆に回数が増えるごとにオスを受け入れなくなり、快楽反応を示すどころか、逆に攻撃的になる。
この2種類の行動変化がこの研究のハイライトで、あとは Mrgprb4神経が最終的に刺激されることで快楽反応が誘導されるのは、この回路が最終的に側坐核でのドーパミン分泌を促すためである事を Mrgprb4神経の光刺激と、ドーパミン光センサーを用いた実験で示している。
また、性行動で起こる、マウンティングや、生殖器や肛門への刺激が、それぞれに対応する側坐核の細胞は異なるが、同じようにドーパミン分泌を誘導することも明らかにしている。
以上が結果で、Mrgprb4神経による C触覚は、側坐核ドーパミン分泌を通して快楽を誘導する回路により、基本的には性行動を調節しているという結論になる。わかりやすくまとめるとネズミの世界でも、タッチを介した前戯が大事という結果になる。このように論文で示された現象を人間に当てはめて考えてみると、様々な想像が沸いてくる。私自身、こんな事も、あんなことも出来るのではと読みながら想像をかき立てられたが、やましい心の中を覗かれるのは嫌なので、ここでストップする。
Mrgprb4神経による C触覚は、側坐核ドーパミン分泌を通して快楽を誘導する回路により、基本的には性行動を調節しているという結論になる。
Imp:
光遺伝学。
こんな所にも活用されているんですね。
光遺伝学技術開発者ダイザロス先生の本が出版されたようです。
https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334962616