生命はゴミダメからいつも発生しているというアリストテレスのドグマを最終的に否定し、生命は生命からというドグマを成立させたのはパストゥールだ。しかし、このドグマは地球上に生命が存在する以上自己矛盾で、少なくとも最初の生命は、生命の全く存在しない地球上で長い時間を経て形成される必要があった。
最近の多くの研究で、条件さえ整えば、地球上で生命誕生に十分な量の有機物が合成できることがわかってきたが、このためには還元/酸化反応など様々な化学反応を起こす地球環境が必要になる。これを地球最古の状態を示すとされるオーストラリア西部、Jack Hillsのジルコンの素性をもとに推定したのが今日紹介する米国ロチェスター大学からの論文で、2月10日号 Science に掲載された。タイトルは「Relatively oxidized fluids fed Earth’s earliest hydrothermal systems(比較的酸化された液体が地球上の最も初期に現れた熱水システムに供給されていた)」だ。
有機高分子が地球外から供給されたというパンスペルミア説に夢を求める人はCrick以来今も多く存在しているが、Crickの時代には考えられなかった条件が地球にも十分備わっていることが、地殻の鉱物が吹き出す温泉やサーマルベントの解析からわかっている。
この研究では生命誕生時期に近い36億年前の熱水循環システムを推定するため、ジルコン(ジリコニウム珪酸塩)を高温高圧の様々な条件で結晶化させた時に含まれるセリウム(Ce)イオンの状態を測定している。こうして得られた結果を、オーストラリアJack Hillsのジルコンの解析結果に当てはめると、この古い地層が生まれた38億年前に存在したと考えられる熱水循環システムの温度、塩素濃度、酸化状況などを推定することができる。
この結果、Jack Hillsジルコンは、海洋の熱水噴出ではなく、大気の水分が地殻に浸透し、マグマで温められた水がジルコンと反応して、地上に噴出したというシナリオを示している。
この条件で実際に熱水循環システムに存在した金属や炭素や硫黄化合物の量を調べると、これまで推定されていた銅イオンは低く、マンガン、亜鉛、鉄、ニッケルなどを多く含む金属イオンとともに、より酸化条件を示す二酸化炭素、酸化硫黄などが存在したと推定している。
結果は以上で、個人的にはほとんど還元状態と思っていた地球上に、酸化/還元という化学反応原動力が存在したこととともに、高分子の吸着や、触媒として最も重要な金属イオンの状態が推定できたことは、これまでの有機高分子合成のシナリオをもう一度この条件で見直す意味で、重要な一歩だと思う。
Crickの時代には考えられなかった条件が地球にも十分備わっていることが、地殻の鉱物が吹き出す温泉やサーマルベントの解析からわかっている。
Imp:
熱水口も‘生命誕生の場‘として可能性大だと思います。
太陽系内の衛星にも生命が存在する確率は大きいと思っています。