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2月23日 コウモリiPS細胞はウイルスのインキュベーター(2月21日 Cell オンライン掲載論文)

2023年2月23日
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コロナパンデミックまっただ中の2021年1月30日、なぜコウモリが様々なウイルスのキャリアーになれるのかについての総説を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/14882)。一言で言うと、ウイルスへの自然免疫を維持しつつ、炎症を切り離せたことで、症状の出ないウイルス感染が可能になっていることが、このウイルスの特殊性を支えている。とはいえ、この秘密を完全に理解するにはさらなる細胞学的な研究が必要になり、そのためには様々な組織細胞が自由に得られることが重要になる。

「様々な組織細胞が自由に得られる」という目的にiPS細胞が今やスタンダードとなっているのは周知の事実だが、コウモリではまだ出来ていなかったようだ。今日紹介するニューヨーク、マウントサイナイ・Icahn医科大学からの論文は、コウモリのiPS細胞樹立に成功したところ、多能性幹細胞自体がウイルスのインキュベーターのような特徴を備えていたという驚くべき論文で、2月21日 Cell にオンライン掲載されている。タイトルは「Bat pluripotent stem cells reveal unusual entanglement between host and viruses(コウモリの多能性幹細胞はホストとウイルスの異常なもつれを明らかにした)」だ。

タイトルにある entanglement という単語もそうだが、イントロダクションを読み始めて、書き様の印象がかなり普通とは違うので、著者を見るとラストオーサーの Thomas Zawaka を見て納得した。初めて会ったとき、彼はヒトES細胞樹立で有名な Thomson研究室からちょうど独立した頃で、様々な分野についての広い知識が話の端々に現れて強い印象を受けたことを覚えている。

その懐かしい彼が、様々なウイルスインキュベーターだけでなく、身体機能でみても心拍数が1000にもなるコウモリに注目して、iPS細胞作成を試みたのはよくわかる。ただ、山中4因子を導入すればそれでおしまいと言うほど簡単ではなかった様で、Sendaiウイルスベクターを用いた遺伝子導入に加えて、特別な培養条件を工夫することで、ヒトES細胞と同じような速度で増殖を続けるiPS細胞の樹立に成功している。

後は、分化能、マウスに移植したときの腫瘍形成、多能性ネットワークの遺伝子発現やエピジェネティック解析による確認などを行い、この細胞をiPS細胞と定義してもいいこと、また同じ条件で他の種のコウモリからもiPS細胞を樹立することが出来ることを確認している。

しかし、山中さんのノーベル賞から10年がたっている今、コウモリからiPS細胞を樹立しても、Cellに論文は到底通らない。

この論文の売りは、コウモリiPS細胞の独自性を調べるため、他の種の多能性幹細胞と遺伝子発現を比べたとき、最も大きな違いとして、内因性のウイルスやウイルスに対応する様々な細胞側の遺伝子の発現がコウモリiPS細胞特異的に見られたことを発見したことだ。

例えばレトロウイルスでみると、リプログラム前の線維芽細胞ではほとんど転写されない数多くの内因性のレトロウイルスの転写、翻訳が起こっている。もともと、コウモリはウイルスのインキュベーターになるだけあって、ゲノム上に多くのウイルスゲノムが組み込まれている。これはレトロウイルスだけでなく、通常はゲノムに統合できないとされているコロナウイルスの様なRNAウイルスでも同じで、様々なコロナウイルスの断片が組み込まれたゲノムから、転写、そして翻訳が起こっていることがわかった。

驚くことに、ほとんどのコロナウイルスをカバーする抗体で細胞を染めると、コウモリiPS細胞の細胞質に粒子状の染色が認められ、二重鎖RNAの存在まで確認できることを示している。

以上が結果で、コウモリiPS細胞ではエピジェネティックな変化が整い、内因性のウイルスが転写翻訳されること、そして細胞内ウイルス増殖に耐性を持っているため、転写されたウイルスやウイルス断片の増産を許すインキュベーターとして細胞が働いていることを示している。この、ウイルス耐性の条件についてはこれからの問題になるが、iPS細胞を樹立するだけで、コウモリとウイルスとの絡み合いを検出する手段が出来た点は重要だ。

さらに、以前 Jaenish研究室から発表された、コロナウイルスも状況次第でゲノムに組み込まれる可能性を示す研究も、コウモリが数多くの内因性コロナウイルス断片をゲノム上に組み込んでいるのを見ると不思議でなくなる。

以上、コウモリがウイルスのキャリアー以上の面白さを持つ動物で、コウモリiPS細胞は面白い研究分野を開き、結構ブレークする予感がする。

  1. okazaki yoshihisa より:

    1:コウモリiPS細胞ではエピジェネティックな変化が整い内因性のウイルスが転写翻訳される.
    2:細胞内ウイルス増殖に耐性を持っており転写されたウイルスやウイルス断片の増産を許すインキュベーターとして細胞が働いている。
    Imp:
    コウモリiPS細胞も作成できるとは。。
    ウイルスと共生可能な仕組みは面白いです!

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