我々の頃の病理学では炎症とは、痛み、腫れ、熱感の3症候から定義すると習ったが、今ではこのような症候学に、分子メカニズムが被せられ、もっと複雑な分子ネットワークについて習っているのだと思う。いずれにせよ、痛みを考えると炎症もストレス反応で、神経を巻き込んだネットワークの存在が想定できる。
炎症の痛みは、炎症によるさまざまな局所変化が末梢神経の痛み受容体を刺激するからだが、今日紹介するハーバード大学からの論文は、痛み刺激がいくつかのメカニズムを通して樹状細胞を刺激し、炎症を誘導するという逆の回路についての研究で、3月31日号 Science に掲載された。タイトルは「Multimodal control of dendritic cell functions by nociceptors(樹状細胞の侵害受容による複数の回路による制御)」だ。
この研究ではNaV1.8侵害受容体陽性末梢神経と樹状細胞の共培養を用いて、末梢神経の刺激により、樹状細胞の炎症性サイトカイン分泌を促進して、特にバクテリアなどの細菌感染に備えている可能性を発見する。
次に、この末梢神経による樹状細胞活性化に神経と樹状細胞の直接接触が必要であることを培養実験で確認し、樹状細胞が活性化されるメカニズムを調べ、最終的に3種類の経路を介して神経が樹状細胞を刺激していることを明らかにしている。
最初の経路は、神経興奮がそのまま樹状細胞の膜脱分極を誘導する経路で、この結果樹状細胞の自然免疫反応を高め、IL6、IL12、IL23などのサイトカインの組織への分泌が高まる。
2番目の経路は、刺激により末梢神経細胞から分泌される CCL2ケモカインにより、樹状細胞は刺激神経に引き寄せられ、局所炎症状態を維持する。
最後に、同じく刺激された末梢神経は神経ペプチドの一つCGRPを分泌し、これが直接樹状細胞に働いて、自然炎症分子のもう一つの柱IL-1βの分泌が促進される。
以上の3経路により、痛み刺激は局所炎症を維持する働きがあることを、皮膚をモデルに生体内で確かめている。実際、CCL2ケモカインが欠損したマウスでは、皮膚炎症が低下するだけでなく、接触過敏免疫反応も低下することを示している。
以上のように、炎症が痛みを誘導するだけでなく、痛み自体も樹状細胞を通して局所炎症を促進することが明らかになった。この結果は、痛みを抑えることが炎症を抑えるためにも重要であることを意味しており、炎症の制御に関する新しい治療法の開発にもつながる気がする。
3経路により、痛み刺激は局所炎症を維持する働きがあることを、皮膚をモデルに生体内で確かめた。
Imp:
やはり、神経系と免疫系には相互連関がありそうです。