プロバイオは、バクテリアなどの生きた微生物を使って体を良い方に調整することを指しており、一番わかりやすいのがヨーグルトなどで乳酸菌やビフィズス菌を摂取することで、人間は発酵食品などで古代からプロバイオを利用してきた。
今日紹介するピッツバーグ大学からの論文は、乳酸菌の中でもさまざまな効果を持つことが示されたことで有名な乳酸菌の一種、ロイテリ菌が、メラノーマのチェックポイント治療を増強する効果とそのメカニズムを調べた論文で、4月6日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Dietary tryptophan metabolite released by intratumoral Lactobacillus reuteri facilitates immune checkpoint inhibitor treatment(食べたトリプトファンは腫瘍組織内のロイテリキンにより代謝され免疫チェックポイント治療を促進する)」だ。
最初はロイテリキンがガン免疫にも効くのかと読んでみたが、読み終わってさまざまな問題を感じる論文で、ある意味よく採択されたなと感じた。
この研究ではメラノーマの免疫チェックポイント治療(ICI)にプロバイオの効果を調べるために、乳酸菌やビフィズス菌を経口摂取させガンを移植する実験系で、ロイテリキンが最も強いガン免疫増強効果を示すことを発見する。また、メカニズムを探ると、腫瘍組織のCD8T細胞のTc1転写因子の発現が高まり、その結果インターフェロンγが分泌されることによる。
次にガン局所の免疫系が経口摂取したロイテリ菌で変化するのは、ロイテリ菌がガン局所に移動したからではないかと考え、ガン組織をすりつぶして培養すると、ロイテリ菌を摂取した動物では腫瘍組織で1mgあたり1万個から1億個ぐらいのロイテリ菌が存在していることがわかる。
本当にそんな簡単にロイテリ菌がガン組織に移動できるのか気になるが、この論文では元々メラノーマ組織には様々な細菌がおり、ロイテリ菌を摂取したマウスは、これら細菌が押しのけられて、ロイテリ菌がガン組織の主要な細菌になる。
ロイテリ菌がガン組織に移行できるとして、ではロイテリ菌の何がCD8T細胞のインターフェロンγ誘導に関わるのか?この研究では最初から、代謝物センサーとして知られるAhR転写因子のリガンドになるトリプトファンの代謝物indole-3-aldehyde(I3A)に当たりをつけ、
- I3A合成能が欠損したロイテリ菌では免疫促進作用がないこと、
- I3Aを直接ガン組織に注射しても同じ効果があること、
- CD8T細胞のAhR分子を欠損させたマウスではロイテリ菌の効果が見られないこと、
- I3Aの原料となるトリプトファンを多く摂取させると、ガン抑制効果が高まること、
などを明らかにする。
そして極めつけは、メラノーマ患者さんの血清中のI3Aを測定し、高い血中レベルを示す患者さんではガンのチェックポイント治療の効果が高いことも示している。
以上が主な結果で、この論文だけを読むとロイテリ菌など、AhRのリガンドを合成できる細菌はガン免疫増強効果をしめし、トリプトファンの多い食事と一緒に投与すると、治療を助けることになる。
ただ、AhRについては、これまでガン自体の増殖を高める効果や、膵臓ガンではマクロファージを変化させガン免疫を抑制するという報告もある、2つの顔を持つ分子だ。この研究でもI3Aを合成しない大腸菌でも、おそらく別のAhRリガンドを合成して抗腫瘍効果があることを示しており、AhRが絡む現象は、極めて複雑で、一筋縄ではいかない。従って、もしロイテリ菌がAhRリガンドを分泌するとすると、単純にガンのチェックポイント治療にロイテリ菌と思い込むのは危険な気がする。やはりもう少し臨床的研究が必要だ。
極めつけは、メラノーマ患者さんの血清中のI3Aを測定し、高い血中レベルを示す患者さんではガンのチェックポイント治療の効果が高いことも示している。
imp.
ロイテリ菌、がん、I C Iの複雑怪奇な関係!