まず Nature誌から提供されているURL(https://www.nature.com/articles/s41586-023-05964-2/figures/4)をクリックして見てください。
この図は脳に少しでも興味のある人なら一度は見たことのある運動野が身体とどう繋がっているかの地図だ。左側が私たちが見慣れてきた地図で、脳の上に描かれたホムンクルスは、決してバランスが取れておらず、複雑な動きが必要な手や、口に多くの領域が割り当てられていることが表現されている。この図は、カナダの脳外科医ペンフィールドが、てんかん手術時に、これらの部位を刺激し、反応があった身体部位を書いている。論文は1937年発表だが、この図自体は1948年版とされており、まさに私が生まれた年で、私も医学部で初めて目にしてからずっとこの図と付き合ってきたことになる。
勿論ペンフィールド自身もこの図は一種のメモのようなものと言っているように、これをそのまま受け取ることの間違いは指摘されてきた。この疑問を精度の高い機能的MRI(fMRI)を用いた神経領域間の結合解析を用いて調べ直したのが、今日紹介するワシントン大学からの論文で、4月19日号 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「A somato-cognitive action network alternates with effector regions in motor cortex(体性-認知行動ネットワークが運動野のエフェクター領域と交互に存在する)」だ。
この研究の答えは、同じ図の右側に示されており、ペンフィールドマップと大きく異なっているのがわかる。一つは、直接身体につながるエフェクター領域の間に、認知と運動を調節する領域が交互に存在すること、そしてエフェクター領域が末梢を中心に体幹の方に向かって同心円的かつ対照に領域が分布していることがわかる。
研究では安静時に領域間の結合を調べるRSFCと呼ばれる方法と、決まった運動を指令して身体を動かしたときの運動野の活動の記録を組みあわせ、運動野各領域の機能を特定している。そして図に示すように、直接運動には関わらない領域がエフェクター領域を分断していること、この領域が注意や行動選択に関わるcingulo-opercular networkをはじめとする中枢ネットワークと強く結合するとともに、エフェクター領域とも結合していることを明らかにする。
すなわち、何らかの意志を持って、行動をプランするときの活動が、エフェクター領域に伝わる前に、このinter-effector領域に投射され、様々なエフェクター領域を一つの運動にまとめ上げるという構造を運動野が持っていることを明らかにした。
面白いのは、詳細な運動に関わる指や舌といった領域は、inter-effector領域から離れていることで、おそらく意志を持った行動は体幹へとまず伝わるような構造になっている点だ。勝手に思っているだけだが、手続き記憶により無意識に行われる運動と、意志を持って行われる運動もこのような構造でうまく分離されている可能性もある。
このような大きなマップが書き直されることは、一番重要なのは卒中などによる障害に対するリハビリ戦略だ。おそらく、発話に関わるような失語にも重要な地図になるような気がする。さらには、意図や意志といったプランに基づく運動支配の理解が重要なのがパーキンソン病なので、運動野のみならず感覚野も統合された正確な地図が描かれることを期待する。
行動をプランするときの活動が、エフェクター領域に伝わる前に、このinter-effector領域に投射され、様々なエフェクター領域を一つの運動にまとめ上げるという構造を運動野が持っている。
Imp;
無意識に行われる運動と、意志を持って行われる運動が、うまく分離されている可能性あり。
些細なことですが、多分こうじゃないかと思います、でも私の勘違いでしたらスルー願います
inter-effector領域からは慣れていることで、
↓
inter-effector領域から離れていることで、
指摘ありがとうございます。遠慮せず、間違いはどんどん知らせて下さい。早速訂正します。