臨死体験といっても、実際には蘇生できた人が語る体験だが、将来脳科学が進んで、脳活動から意識下の脳活動を解読できるようになれば、実際に人は死ぬ前に何を意識しているのかがわかるようになるかも知れない。おそらく、その前に脳活動から夢の内容がわかるようになる必要があるが、以前紹介したようにdeep learningを使うと、少しづつそんなことが出来るようになってきたと感じる。
臨死体験が語られているということは、脳の活動が完全に停止する脳死になる前に、さまざまな脳活動が起こっていることを意味する。今日紹介するミシガン大学からの論文は、心臓発作などで意識を失い集中治療を行った結果、回復の見込みがないと人工呼吸やエクモ装着を中止した4人の患者さんが、脳活動を完全に失うまで脳波を取り続け、脳波が完全に停止する前に、一時的に意が識が回復したような脳波が現れることを明らかにした論文で、5月1日米国アカデミー紀要にオンライン掲載された。タイトルは「Surge of neurophysiological coupling and connectivity of gamma oscillations in the dying human brain(死につつある人間の脳ではγ波の神経生理学的カプリングと結合性がが一時的に急上昇する)」だ。
紹介する前に、少し用語を解説する必要がある。まず脳波検査でわかるγ波のカプリング及び結合性だが、γ波というのは脳波の成分で、30Hz以上の早い周期を持つ成分で、注意や感覚の認知などに関わることが知られており、言ってみれば意識の必須要素になる。また、カプリングというのは、ゆっくりした周期の波、たとえばθ波の振幅にγ波の振幅が完全に重なることで、誤解を恐れずザクっと言ってしまうと、複雑な認知機能が働いていることを示している。結合性とは、同じ脳波成分が異なる領域で同期して検出されることで、脳の異なる領域が動員されていることを示している。
このように脳波の解析は、コンピュータの助けなしには行えないほど複雑なので、この研究からわかったことを、ざっとまとめると次のようになる。
- 人工呼吸器を外して低酸素状態に陥ると、副交感神経刺激が起こり、この自律反応が次に体性感覚を刺激し、その後脳のγ波活動が一時的に上昇する。
- このγ波上昇には、波長の低い要素とのカプリングが起こっている。
- 意識の中枢と考えられている、皮質ホットゾーン(TPO)のγ波活動が上昇し、脳のさまざまな領域と同期的に活動する。
- このような意識活動を示唆するような変化は、てんかん発作の既往がある人で選択的に認められ、決して誰でもに起こるわけではない。すなわち刺激閾値が下がっている人で、このような反応が起こりやすい。
もちろん今回の被験者からの自己申告を得るのは不可能なので、いくら視覚野とホットゾーンの同期した活動があるからといって、これまで臨死体験として語られてきた例えば強い光をこの患者さんたちが見ていたかどうかはわからない。おそらく、夢と同じで、ここで幸運にも覚醒して自ら語ってもらうしか、現在可能な方法は無い。しかし、将来意識や、脳活動の解読などが可能になると、さらに正確な推察が可能になるかも知れない。
研究としては一見ゲテモノに見えるが、感覚と認知を理解するためには面白い方向だと思う。
意識の中枢と考えられている、皮質ホットゾーン(TPO)のγ波活動が上昇し、脳のさまざまな領域と同期的に活動する。
Imp:
臨死体験。存在するのは確かだと思います。
死に至る脳の生理的な機構による現象か?
魂が肉体から離脱する機構による現象か?
唯物論か?物心二元論か?
哲学的命題に自然科学的に挑める可能性が!