血管新生というとすぐに血管内皮の増殖を伴うと考えるのが一般的だ。ただ、発達期の場合、体中で細胞増殖が起こると、血管のインテグリティーを維持できるのかいつも心配になる。
今日紹介するイェール大学からの論文は、新生児からの発達期を中心に、ただただ皮膚の血管内皮の動態をモニターし、血管の成長がこれまで考えられてきた内皮増殖を中心に置いていないことを明らかにした研究で、5月10日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Mechanisms of skin vascular maturation and maintenance captured by longitudinal imaging of live mice(マウスを生きたまま長期間観察することで明らかになった皮膚血管の成熟と維持)」だ。
この研究では、タモキシフェンを注射すると血管内皮が蛍光分子を赤から緑にスイッチする遺伝子操作を行ったマウスを用いて、皮膚血管内皮網がどう発達するか調べ、発達期では皮膚血管が増えると言うより、逆に神経の剪定と同じで、密度が減って行くことを観察する。
発達するのに血管が減ると、酸素供給が追いつかなくなるのではと心配になるが、実際には新生児血管網の半分は血管内に血球が存在せず、機能していない。従って、血管機能としては剪定が起こっても同じレベルが維持できる。いずれにせよ、発達期では無駄な血管を減らす剪定が中心になる。
次にタモキシフェンの量を調節して、一部の血管内皮だけが緑に光り、他は全て赤に光るマウスを用意して、剪定時の個々の血管の動態を追いかけると、剪定により失われる血管の内皮は死ぬのではなく、血管内皮網の中に移動し、残った血管で使い回されることが明らかになった。この時、細胞死や細胞増殖はほとんど観察されないが、一個の血管内皮の長さが伸びることも確認している。
すなわち、剪定とはいえ、血管内皮数は変化せず、剪定された内皮は他の場所に移動し、さらにサイズが伸びることで、同じ数の内皮で広い範囲をカバーする新しい血管網が出来ることを示した。
このような血管内皮の移動は大人になると消失し、血管は安定化するが、血管が傷害されると、増殖より先に近くの内皮が移動して伸びるという新生時期の過程が観察できる。従って、血管の再構成はまず血管内皮の移動から始まる。これは血管が広い範囲にわたって傷害される場合も同じで、既存の血管内皮を使い回すことが、毛細血管網のインテグリティー維持の中心になっていることがわかった。
最後に、増殖のない血管内皮の移動や伸長のような細胞過程にも、Flk1とVEGF-Aの血管増殖因子が関わることを明らかにし、このシグナルの多様な機能を示している。
結果は以上で、血管の発達が必ずしも細胞増殖を必要としないこと、また血管内皮細胞は、血管網内で比較的自由に移動することで、構造を保ったままの剪定や再構成が維持されていることが明らかになった。ひたすら観察している研究だが、形態学の重要性が改めて認識される。
剪定により失われる血管の内皮は死ぬのではなく、血管内皮網の中に移動し、残った血管で使い回される!
Imp:
内皮細胞の再編成のより成熟血管網が形成される。