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9月25日:眠りを誘導するサーキット(Nature Neuroscience9月号掲載論文)

2014年9月25日
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私たちは普通、起きているか、寝ている。また寝ているときも、脳の活動状態がずいぶん違うノンレム睡眠とレム睡眠を繰り返す。レムとは、rapid eye movementの頭文字をとったもので、文字通り寝ているのに目がキョロキョロ動いている。もう一つの眠りは、脳波で見た時脳全体がゆっくりした活動の波に同期している様に見える状態で、slow wave sleep(SWS)と呼ばれている。ただ、このSWSは覚醒時に得た記憶を新たに整理し直すのに重要とされている。各状態は共存するわけではなく、それぞれ排他的だ。従って、各状態を決めるための異なる中枢領域があり、相互に抑制しあう構造になっていると考えられていた。今日紹介するハーバード大学からの論文はSWS状態が脳幹のparafacial zone(PZ)と呼ばれている場所に支配されている事を機能的に確かめた仕事で、9月号のNature Neuroscienceに掲載された。タイトルは「The GABAergic parafacial zone is a medullary slow wave sleep-promoting center(PZにあるGABA性神経は延髄のSWSを促進するセンター)」だ。論文を読むと以前からPZにSWSを誘導する眠り中枢が存在し、覚醒を維持する中枢と結合している事が知られていたようだ。この研究では、PZがSWSを誘導する中枢かどうかを機能的に確かめるために、GABA性ニューロンでだけ発現できる様に細工した興奮性のムスカリン受容体をウィルスベクターに入れて、PZに注入している。この方法を用いると、CNOと呼ばれる薬物を腹腔内に投与する事でPZのGABA性ニューロンを特異的に興奮させる事が出来る。結果は期待通りで、昼夜を問わず、いつCNOを注射しても、すぐにSWSに入る。脳波でみると、完全に覚醒状態が抑制されるだけでなく、REM睡眠も抑制する。即ち、PZが興奮すると覚醒やREMに関わる中枢を抑制して、SWSが誘導される。まさに、SWS睡眠センターとしてPZにあるGABAニューロンが機能している事が明らかになった。ではPZが興奮するとどうして他の状態を押さえる事が出来るのか?この研究では、PZのGABA性ニューロンが、覚醒に関わるとされている傍小脳核(PB)にあるグルタミン酸性ニューロンを直接抑制しているかどうかを次ぎに調べている。ここで登場するのはこれまでも紹介した光遺伝学で、光を当てると興奮する遺伝子を同じようにPZのGABA性ニューロンに発現させ、今度は光刺激により覚醒神経が抑制されるか調べている。結果、PZ神経はPB神経と直接シナプス結合しており、光を当て興奮させるとPZのGABA性ニューロンがGABAを分泌、これがPBニューロンに抑制性電流を誘導する事が明らかになった。さらに今度はPBニューロンを光刺激で興奮するよう操作し、光刺激によりこのニューロンからグルタミン酸が分泌され、それにより大脳の前の方にあるpre-frontal 皮質にある神経を興奮させる事も明らかにしている。説明がややこしくなったが、要するにPZのGABA性ニューロンは直接PBニューロンとシナプス結合し、抑制することで覚醒シグナルを押さえる。この覚醒PBニューロンは皮質全体の覚醒状態を調節しているpre-frontal皮質と直接結合して、これを興奮させている。このサーキットにより、PZからのシグナルが大脳皮質全般にリレーされ、脳活動全体がSWS状態に入ると言うシナリオだ。私自身、睡眠を大分理解できたような気がする。しかしよく考えるとこれはほんの入り口にすぎない。REM睡眠状態も含め、3状態の周期全体を調節しているメカニズム解明にはまだまだ研究が必要だ。とは言え、遺伝子操作なしでなんとかPZニューロンを好きな時に興奮させられれば、ぐっすり眠れる事間違いない。眠りの浅い私としては大いに期待したい分野だ。

 

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