これまでの研究で匂いとうつ病の関係が指摘されている。うつ病になると嗅覚が低下するし、うつ病の人では嗅球の大きさが減少している。また、嗅覚がなくなった人の3割はうつ病を発症する。事実、Covid-19の後遺症で嗅覚が低下した結果、急速にうつ病が増加したことも指摘されている。逆に、嗅覚を訓練するとうつ病が改善することも知られている。
これらの原因は、嗅球が発生源の早い周期のγ波が、梨状葉皮質や、扁桃体などの辺縁系に伝わって、感情や意志を調節するからではないかと考えられている。今日紹介するハンガリーのセゲド大学からの論文は、嗅球から梨状葉皮質へ伝えられるγ波を調節することで、うつ病症状が変化するかどうか調べた研究で、5月7日 Neuron にオンライン掲載された。タイトルは「Reinstating olfactory bulb-derived limbic gamma oscillations alleviates depression-like behavioral deficits in rodents(嗅球から辺縁系へ伝播するγ波が齧歯類のうつ病葉症状を改善する)」だ。
これまでも、鼻腔を蓋したり、嗅球を傷害したりしてうつ症状を誘導する実験は行われていた。この研究では、まず嗅球から梨状葉へのシナプス結合を結断すると、γ波が辺縁系に伝わらず、例えば甘い水を飲んでも喜ばない無快感症に陥ることを確認する。
その上で、発生するγ波のみを、逆相のγ波で梨状葉を刺激することでキャンセルし、γ波が関わる脳機能を調べている。このためには、嗅球のγ波を検出し、これを逆相にして梨状葉へインプットする閉鎖回路が設計され使われている。
これにより、神経細胞全体ではなく、γ波のみの機能が明らかになるが、結果は明瞭で、無界干渉及び不安神経症が誘導される。
この条件で、ケタミン治療を行うと、γ波が抑えられていてもうつ症状が改善することから、ケタミンがγ波の下流で調節されるイベントに効果があることがわかる。
逆に、他の方法でうつ状態を誘導したとき、今度は逆相ではなく、同じ相のγ波の強度を強めると、うつ症状が抑えられることが明らかになった。
以上が結果で、電気的にγ波のみを特異的に変化させる方法でうつ状態とγ波の関係を調べたことがこの研究のハイライトになる。この結果、これまで現象論的に示されてきた、匂いとγ波の関係が明らかにされ、今後直接嗅球に働きかける治療も可能になる予感がする。単純だが面白い研究だ。
匂いとγ波の関係が明らかにされ、今後直接嗅球に働きかける治療も可能になる予感がする。
imp.
匂い刺激による多幸感に抗うつ効果あり!