マクロファージはバクテリアなどを貪食して処理する必要があるが、その時カスパーゼ1活性化を中心とする強い炎症反応が起こり、自ら感染細胞が死ぬが、この様式がピロトーシスと呼ばれている。この時、ガスデルミンと呼ばれる分子が細胞膜直下で重合し細胞膜にチャンネルが形成されることで、周りに炎症性サイトカインを分泌し、防御に役立てるようにできている。ただ、ガスデルミン孔は大きな分子を通さない。これに変わって、NINJ1という膜蛋白が、炎症反応で活性化され、細胞膜に大き孔を開けることで、細胞がダメージを受けた警告としてはたらく 様々な大きな分子を周囲に分泌するのを助けている。
もちろん、これはピロトーシスの話で、アポトーシス、ネクローシス、ネクロプトーシス、フェロプトーシスと異なる様式の細胞死が存在している。ことほど左様に細胞が死ぬ時の様式は複雑で、解析が難しいが、これを理解することは炎症やガンなど、個々の細胞と組織や臓器といった社会的構造との関係を理解するために必須になる。
今日紹介するローザンヌ大学からの論文は、何故たかだか16KDという小さなNINJ1分子が、大きな孔を開けることができるのかについて、構造学的、細胞学的に検討した研究で、5月17日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Structural basis of NINJ1-mediated plasma membrane rupture in cell death(NINJ1による細胞膜の破壊による細胞死の構造学的基礎)」だ。
この研究ではまず、NINJ1の重合化がガスデルミンの活性化により引き金が引かれることを明らかにしている。すなわち、ガスデルミンが存在しない細胞ではNINJ1による孔もできない。メカニズムについてははっきりしていないが、まずガスデルミンによる孔が形成されることで、細胞のフォスファチジルセリンが幕の表に出ることでNINJ1が活性化されるのではと考えている。
この活性化が起こると、細胞外に突き出したα1、α2ドメインが膜内に突き刺さり、α1ドメインが細胞内のドメインと結合することで、分子が数珠繋ぎになり細胞膜状でフィラメントを形成する。以上のことが、高解像度顕微鏡やクライオ電顕を駆使して確認されている。
その結果、フィラメントだけでも幕に裂け目が形成されるし、またフィラメントが膜状でつながると、ジッパーのような構造、あるいは大きな孔が形成され、細胞膜が破綻することを見事に示している。
以上が結果で、構造学の研究はまとめてしまうと簡単だが、しかし多くの重要な情報が、構造の細部に隠されており、今後に生かされると思う。面白かったのは、このような膜状のフィラメント構造も、ほぼ完全にchatGPTと同じトランスフォーマーを用いているαフォールドで解読できる点で、専門家には当たり前かもしれないが、個人的には感心した。
これほど繊細な死ぬための仕組みを持つ必要性は、個と社会の関係を考える上でも面白いテーマだ。
ピロトーシス、アポトーシス、ネクローシス、ネクロプトーシス、フェロプトーシスと異なる様式の細胞死が存在している.
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免疫放射線治療を考えるとき、いつも頭をよぎる、多様な細胞死機構!