キラーT細胞は標的とT細胞受容体(TcR)コンプレックスを用いて結合し、細胞傷害因子を標的に注入すると、速やかに標的を離れ、次の標的へと移行する。この時、一旦形成されたTcRと標的側のMHC/抗原ペプチドとの結合(免疫シナプスと呼んでいる)は、次の標的へ移動するためには完全に解消する必要がある。この過程はこれまでTcRごと細胞内へ取り込まれるエンドゾーム形成で行われると考えられてきた。事実、多くの受容体はシグナルを受けた後、インターナライゼーションとして知られるエンドゾームへの取り込みが確認されている。
ところが今日紹介するケンブリッジ大学からの論文は、電子顕微鏡や高解像度顕微鏡を用いて免疫シナプスを観察、免疫シナプスは内部に取り込まれるのではなく、外部に切り出して標的側に残す、エクトサイトーシスによることを明らかにした研究で、5月26日号 Science に掲載された。タイトルは「Ectocytosis renders T cell receptor signaling self-limiting at the immune synapse(エクトサイトーシスが免疫シナプスでのT細胞受容体のシグナルの自己調節にかかわる)」だ。
免疫シナプスを可視化するため、TcRζにペルオキシダーゼを結合させ、標的とT細胞の相互作用を継時的に観察し、それを3D化するという地道な作業を800枚の電顕像を用いて行い、
- T細胞は細胞外に飛び出した仮足上のTcRを用いて標的に結合すると、1時間ほどで免疫シナプスは1/5に減る。
- この時、免疫シナプスは細胞外へ吐き出された小胞エクトゾームとして標的側に残る。
- これまで考えられてきたエンドゾームへの免疫シナプスの移行は全く起こらない。
ことを明らかにしている。
あとは、エクトゾームにはシグナルが活性化されたTcR複合体が存在しているが、グランザイムのような細胞傷害性分子は存在せず、純粋に免疫シナプスを解消する目的でエクトサイトーシスが起こること、またエクトサイトーシス形成過程に、細胞膜に切れ目を入れるディアシルグリセロール形成が関わっていることを確認している。
結果は以上で、これまでの常識が、正確な観察の結果改められたことになる。免疫シナプスという言葉ができて久しいが、ようやく今になってシナプス解消機構が明らかになるとは、科学が常に事実の断片と想像でできていることを示している。
1:免疫シナプスは細胞外へ吐き出された小胞エクトゾームとして標的川に残る。
2:これまで考えられてきたエンドゾームへの免疫シナプスの移行は全く起こらない。
Imp:
小胞エクトゾームとして吐き出される!
免疫シナプス機構も謎だらけ!