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6月6日 種レベルの寿命と老化(6月1日 Cell オンライン掲載論文)

2023年6月6日
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以前紹介したように、熊大の三浦さんからハダカデバネズミだけでなく、長生きでガンになりにくい動物ではネクロプトーシスを調節するRIPKやMLKL遺伝子が欠損して、炎症を抑えることで長生きできる種が生まれている。ただ、これらの分子は感染防御には重要なので、野生での平均寿命は低下するかと思うが、象で調べると、GPT4でもgoogleでも野生では平均寿命は60−70歳となっており、一方最高齢は90歳ぐらいなので、この変化は感染には影響ないのかも知れない。

このように長生きの遺伝子変化についての研究は行われているが、今日紹介するハーバード大学からの論文は、種レベルの寿命と、個体レベルの老化との関係を様々な動物で網羅的に調べた研究で、6月1日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Distinct longevity mechanisms across and within species and their association with aging(種間及び種内での異なる寿命を決めるメカニズムとその老化との相関)」だ。

なんとテキストだけで14ページという膨大の論文で、全部紹介するのは難しいとはじめから断っておく。

この研究の第一の目的は、若い成体の各臓器の遺伝子発現から、それぞれの種の寿命を予測できるパターンを、40種類の哺乳動物のデータを用いて探っている。種が違えば、同じ臓器でも遺伝子発現のパターンは異なっており、この中に種固有の寿命に関わる遺伝子パターンが存在するはずと考えている。

期待通り、臓器を問わず発現と種の寿命とが相関する遺伝子が特定される。この多くはDNA損傷や、代謝に関わる遺伝子で、これらが集まることで少しづつ種の寿命が延びている。これに加えて、ハダカデバネズミのような特殊な変異が寿命を加速しているのがわかる。

一方、老化に伴う遺伝子変化をデータベースから調べると、臓器や種を問わず老化に伴う変化が間違いなく存在し、免疫反応や炎症に関わる分子、及びエネルギー代謝に関わる遺伝子がリストされる。

こうしてリストした種の寿命と、老化に関わる遺伝子の関係を調べるため、寿命を延ばすための様々な介入により変化させることが可能な老化遺伝子に着目して調べると、介入で老化を遅らせることができる遺伝子は、種の寿命を決める遺伝子とほとんど相関がないことがわかる。すなわち、種の寿命を決める遺伝子発現を変化させることは老化を遅らせることにはならない。

あとは、こうしてリストした重要な寿命あるいは老化遺伝子について個々に調べている。中でも面白いのは尿酸で、勿論細胞を傷害し炎症を起こすことから老化遺伝子として治療の対象となっているが、尿酸自体は多いほど種の寿命は長い。ただ、乳酸からallantoinを合成するウリカーゼは寿命の長い動物ほど低く、霊長類では消失している。すなわち、allantoinを合成しないで尿酸を高く保つことが種の寿命を決めている。

他にも、NADを高めて老化を防止することが一般に行われているが、種を超えて同じ現象が見られることはない点も面白い。すなわち、種の寿命とアンチエージングとは全く別物であることがわかる。

このように膨大な老化と寿命についての遺伝子発現データベースを形成した上で、これらの発現パターンを変化させる様々な介入法について細胞を用いた検討を行い、PI3K阻害剤、PKCβ阻害剤、PI3K/AKT阻害剤、TNF阻害剤、MTOR阻害剤などが寿命を延ばす遺伝子発現パターンを誘導できることを見つけている。

そして最後に、これまでも老化に介入する可能性がある標的として考えられてきたmTORに対する新しい阻害剤(KU0063794)を、老化が始まった750日齢のマウスに投与し、余命を2割ほど伸ばすのに成功している。

かなりはしょって紹介したので、面白い話を飛ばしている可能性があるので、老化に興味がある人、あるいは特定の遺伝子について知りたいヒトは是非論文を読んで欲しい。いずれにせよ、種の寿命を、個体の老化と分けて考えることでわかる様々な現象が示されている力作だ。