先日、心臓をドキドキさせると不安になることを心拍を変化させる光遺伝学を用いて証明したDeisserothグループからの論文を紹介(https://aasj.jp/news/watch/21651)。心機能が脳の構造や機能に強い影響を持つこと、また逆に統合失調症やうつ病で心疾患の合併率が高まることなど、心臓と脳の密接な結合について示す多くのエビデンスが存在する。
ただこのような心臓・脳結合を画像診断や遺伝子診断を用いて網羅的に調べた論文が、今日紹介するノースカロライナ大学生物統計部門からの研究で、6月2日号の Science に掲載された。タイトルは「Heart-brain connections: Phenotypic and genetic insights from magnetic resonance images(心臓・脳結合:磁気共鳴像から得られた形質的遺伝的考察)」だ。
この研究の参加者のほとんどが、ペンシルバニア大学のデータサイエンス部門と、ノースカロライナ大学生物統計学部門に在籍する中国系の研究者で、使ったデータはUKバイオバンクと日本のバイオバンクのデータである点にまず驚いた。すなわち、戦争や国家間の摩擦が高まっている今、データサイエンス領域にはデータに国境をもうけず国籍を問わず様々な研究者が自由に利用できるよう維持できていることに安心した。
さて、研究では心臓のMRI画像から82種類の特徴を抜き出し、これを脳の3種類のMRI画像(構造、結合、機能)と相関させている。心臓については構造中心になるが、構造と機能が強く相関しているので、構造で十分と言うことになる。すると、1000を超す脳MRIの特徴と心臓画像の特徴が相関する。いちいち述べないが、例えば左心室の肥大は、血圧などを介して、当然白質障害につながる。
問題は、これらの相関から如何にして異常発症のメカニズムを明らかにするかだが、それぞれの特徴と遺伝子多型との相関を調べ、その遺伝子の機能や発現から、心臓・脳結合が起こっているメカニスムを探っている。
この結果例えば心臓については89種類の遺伝子多型が特定されている。これを脳や心臓の遺伝子発現(eQL)やエピゲネティックデータベースと照合したりして、最終的に分子からそれぞれの臓器の異常までの過程をデータから明らかにしようとしている。
わかりやすい例として、rs597808多型は細胞毒の除去に関わるALDH2遺伝子の多型で、心筋や動脈の異常に加えて、パーキンソン病やアルツハイマー病とリンクしている。すなわち、細胞毒の除去効率が、心臓・脳細胞の維持に関わることを示している。
このような分子を起点にした相関のリストが出来てくると、その中には薬剤により阻害、あるいは活性化出来る分子がリストできる。例えば先に挙げたALDH2の活性を高めることが出来れば、脳と心臓の健康を守ることが出来るようになる。
実際、リストされた遺伝子の多くがイオンチャンネルであることも、心臓や脳の機能から理解できる。例えば、心臓のカルシウム拮抗剤が認知機能低下を強く抑制できるというこれまでの報告もある。
以上、まだまだ多くの例が示されているが、わかりやすい例のみ説明した。要するに、医学や生物学教育も、データサイエンスの割合を大きく高める必要があることをこの研究を含む最近のトレンドは示唆しており、その例として取り上げた。
これらの相関から如何にして異常発症のメカニズムを明らかにするかだが、
1:それぞれの特徴と遺伝子多型との相関を調べ、
2:その遺伝子の機能や発現から、心臓・脳結合が起こっているメカニスムを探っている。
Imp:
データ解析から生物学的メカニズムをある程度推定可能になるだけでも労力削減になりそうです。